学術情報

プロバイオティクスの使用経験と応用の可能性

 
昨今、海外、特にヨーロッパを中心に、予防医学の重要性や抗生物質療法の限界が認識され、生体が本来持っている自然治癒力を見直そうという考えが広まってきています。また、日本においても、プロバイオティクスに関する情報や商品を目にする機会が増えてきました。そこで、座談会「イギリス発 世界基準でプロバイオティクスを最大限に小動物臨床に生かす」※に出席された先生方に、プロバイオティクスに対する評価や期待することをうかがいました。

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プロバイオティクスの使用経験 井上龍太(フーレップ動物病院

特定のプロバイオティクス・サプリメントについて、下痢に対する高い有効性を認めている。腸内環境の安定化は、その個体の健康にきわめて重要であり、下痢以外にもさまざまな疾病の発生を未然に防いでくれる効果が期待される。

プロバイオティクスは下痢などの病的状態での投与はもちろん有意義だが、夏場や寒暖の差が激しいとき、移動や飼育環境の変化があるときなど、動物にとってストレスのかかりやすい時期に、問題が生じる前から投与しているとその真価を発揮すると思われる。

現在私は、12〜15歳の高齢犬にプロバイオティクス・サプリメントを積極的に投与しているが、便の状態が安定し、元気も良くなってきたと飼い主様から好評を得ている。毎日、朝晩の食事に少量混ぜて与えてもらっているが、嗜好性や給餌が容易なサプリメントであるため、飼い主様の負担も少なく、継続して使用してくれている。

プロバイオティクスによる腸内環境の改善 片岡 康(日本獣医生命科学大学)

◆下痢改善の微生物学的解釈
下痢が起こっているときには、多くの場合、腸内細菌のバランスが大きく崩れているのだが、プロバイオティクスの投与がバランスの崩れた腸内細菌を正常な状態へと戻してくれる。腸内細菌のバランスが正常に戻れば、下痢が改善されることにつながる。

◆子犬や子猫の腸内細菌叢の正常化 
子犬や子猫は、腸内細菌叢が日に日に育っている段階である。そのため、プロバイオティクスを定期的に与えることで、腸内細菌叢を常に正常化することができる。腸内細菌叢が正常であれば、いつも健康な状態を保つことができる。

◆抗生物質とプロバイオティクスの使い方 
抗生物質は、感染症の起因菌にだけ作用するわけではなく、常在細菌にも効力を発揮してしまう。そのため、治療薬として用いた抗生物質が常在細菌の中でも「善玉菌」と呼ばれている細菌の数を減らしてしまうが、プロバイオティクスのような「善玉菌」を同時に投与することで常在細菌の平衡を保つことができる。

プロバイオティクスを利用する際の留意点 福岡 淳(上石神井動物病院)

◆急性下痢と慢性下痢への適用 
プロバイオティクスの役割は腸内環境の安定化にあるので、あらゆる下痢に対して積極的に適用すべきであろう。ただし、下痢の原因や程度はさまざまなため、状態にあわせて急性下痢では対症療法、慢性下痢では原因療法など適切な併用治療が必要となる場合も多く、それぞれの症例において病態を正確に把握することが重要である。

◆プロバイオティクスを使用できない下痢はあるか? 
生菌という点で禁忌というものはないが、増量剤に乳糖が使用されているものは、激しい下痢には控えたほうがよいかもしれない。この場合、刷子縁酵素である乳糖分解酵素の活性が低下している可能性がある。また、プロバイオティクスに関して、オリゴ糖は量が多いと下痢を悪化させてしまうし、小麦やオオバコなど穀物類では、これらに対してアレルギーを有する場合には禁忌となる。

◆腸内細菌叢と腸内免疫の関係 
体外から外来物質を多く受け入れる腸管は、パイエル板、上皮間リンパ球、粘膜固有層、クリプトパッチ、腸間膜リンパ節などを擁し生体内最大の免疫器官となっており、抗原認識やIgA分泌による病原体や毒物の排除を担っている。これらの活性化は腸内細菌の定着が必要となる。さらに有益菌の安定は、病原菌の排除や、免疫寛容の安定化によるアレルギーの予防などに役立つ。

プロバイオティクスの応用の可能性 山田武喜(亀戸動物病院)

◆細菌性下痢への抗生物質治療 
最近は世界的な傾向で、これまで抗生物質が主体であった細菌性の疾患に対し、可能な限り抗生物質を使わない治療に変遷しつつある。これは、安易な抗生物質の使用が耐性菌を増やしてしまうことに加え、抗生物質に頼らず生体が本来有する生体防御機構を高めて治療していこうという考え方が広まりつつあるからである。

また、抗生物質による細菌性下痢の治療は、一時的には有害菌の減少で症状がよくなるものの、有益菌も減少しているため、必ずしも腸内細菌叢が良好な状態になったとはいえず、再び下痢を繰り返す傾向がある。したがって、細菌性下痢に対しては、可能な限り抗生物質の使用を控え、プロバイオティクス投与のような腸内細菌叢を整える方法で治療をするほうがよりよいと思われる。

◆プロバイオティクスが第一選択となる下痢とは? 
下痢には、神経性の下痢、ストレス性下痢、消化不良性の下痢、毒素、細菌、ウイルスによる下痢などがあるが、プロバイオティクスはいずれの下痢に対しても効果が期待できる。そのなかでも、毒素、細菌、ウイルスなどによる下痢は、速やかに毒素や細菌を体外へ排出する必要がある。この場合に腸管運動抑制剤等などの腸の運動を止めてしまう薬を使用すれば、毒素や病原体が排出できず、かえって病気を悪化させたり長引かせたりしてしまう可能性がある。プロバイオティクスは直接腸管の運動を止めるものではなく、生体の自然な防御反応は抑制しないため、毒素や細菌、ウイルスによる下痢にも安心して使用することができる。

◆消化器疾患以外へのプロバイオティクスの適用 
アレルギーや免疫疾患は、腸内細菌叢の異常が症状を悪化させていると言われている。これは、腸の中の有害菌が有益菌より優位になると、アレルゲンに対してより強い抗体が形成されるため、アレルギー症状が悪化するからである。人の花粉症軽減のために乳酸菌製剤を摂取するというのもこういった理論に基いており、アレルギー疾患や免疫疾患の補助的治療法として、プロバイオティクスは大いに期待できると思われる。

動物は入院や手術のストレスで下痢をすることも良くあるのでプロバイオティクスをその予防として入院中や手術後に投与し効果をあげている。癌の場合の抗癌治療中も下痢をすることが多く、この場合の下痢は、動物の状態をさらに悪化させるので、私はその予防としても使用している。

離乳期の子犬は、正常な腸内細菌叢を形成させるのに重要な時期であり、この時期の腸内細菌叢の異常は生涯にわたって影響するので、離乳期の子犬への投与も勧めている。

【総括】プロバイオティクスに期待すること 安川明男(西荻動物病院)

プロバイオティクスが欧米で多く使用されている背景には、抗生物質の安易な使用をやめようという世界的なトレンドがある。 農業でも、かつては農薬や抗生物質を多量に散布し米や野菜をつくっていたが、現在は人の健康や環境、将来のことも考え、農薬を極力減らし、天敵を利用した害虫駆除や農薬や化学肥料を使わず土壌の有益菌を利用する有機農業に移行しつつある。

プロバイオティクスによる下痢の治療は、これまでの安易な抗生物質治療ではなく、有害菌を減らすために有益菌を増殖させるという、農業における天敵を利用した害虫駆除にも似ており、動物にも、人にも、環境にも優しい治療法だと思われる。

プロバイオティクスは下痢治療のみならず、アレルギーの治療や他の治療の補助、健康維持にも効果が期待ができるようであり、生体にやさしい安全性の高い治療の選択肢として、これから、ますます注目されるものと思われる。



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