学術情報

輸液管理の再認識

  • ナガエ動物病院 院長長江秀之

体液の管理や栄養補給の手段として行われる輸液は、管理の仕方を間違うと重篤な問題を引き起こします。ここでは動物への正しい輸液管理を再認識していただくことを目的に、一般的に誤解が多いと感じていることなどを述べたいと思います。

5%ブドウ糖液は栄養補給には使えない

まず私が一番多いと感じていることの一つに5%ブドウ糖液(D5W)に対する誤認識があります。末梢からの輸液でD5Wを栄養補給目的に用いられる場合があるのですが、実はブドウ糖は1gが4カロリーしかないので5%ブドウ糖では栄養にはなりません。カロリー補給目的でブドウ糖の投与を行うなら20%以上の濃度が必要です。

では、D5Wが何の用途として作られているかというと水を補給するためです。輸液剤はみな水溶液ですから、どんな輸液剤にも水が入っているのでは?と思われるかもしれませんが、輸液で「水」と言う場合は「自由水」のことを指します。生理食塩液(PSS)にも水が入っていますが、ナトリウムが細胞外液と等しい濃度で入っていますので、水が細胞内に入ろうとしてもナトリウムの浸透圧がじゃまして入れません。

すなわち、PSSに入っている水には体液区画を移動する「自由」がないのです。D5Wは体内で糖が代謝されて消えてしまいますので、結果的に純水を投与したことと同じになります。細胞外液中に投与された自由水は細胞内液中にも入れますので、細胞内脱水も補正できます。

なぜ5%のブドウ糖を加えているかというと、水を直接投与しようとすると浸透圧が0のため、溶血などの問題が生じるので浸透圧を等張にしておく必要があったためです。

すなわち、D5W中の糖は投与時に浸透圧を等張にし、投与後は跡形もなく消えてしまう物質として選ばれただけで、栄養を補給しようという考えはもとからありません。

また、投与されたD5Wは、たった12分の1だけが血漿成分として残るのだということも知っておく必要があります。この理由は、体液量は体重の60%で内訳は細胞内液が40%、細胞外液は組織間液15%、血漿中5%ですので、投与されたD5Wのうち血漿に残るのは60%中5%になります。これは投与されたほとんどが細胞外液中に分布するPSSとの大きな違いです。

皮下投与してはいけない5%ブドウ糖液

あとD5Wの使用で注意しなければならないことは皮下輸液に使用してはいけないという点です。D5Wは等張液ですが電解質を全く含んでいません。等張液だということで皮下輸液を行うと、細胞外液との組成の大きな違いから、電解質、主にナトリウムが、D5W中に移動してしまい、同時に水の移動も起こり、一時的に脱水を起こすと考えられています。

こういった理由から皮下には通常乳酸リンゲルやリンゲルなどの晶質等張液を投与することになりますが、リンゲルは意外と使用が難しいものなのです。

具体的例を申しますと、リンゲルにはナトリウムが多く含まれるため、心不全、腎不全の患者には慎重に投与する必要があることと、急速投与で代謝性アシドーシスを引き起こすことがリンゲルの使用の難しい点です。当院ではリンゲルを単独で使用することは少なく、代謝性アルカローシスの補正に用いる程度ですが、その症例自体がほとんど無いのが現状です。

一番よく使うのは乳酸リンゲルと2号輸液剤です。乳酸リンゲル液は、あくまで細胞外液の補給に使用する外科輸液であり、水分・電解質の補給としての維持輸液としては使えないという点で万能ではないと言えます。

末梢から投与可能な高カロリー剤

つぎに、カロリーの補給についてですが、一般的には高カロリー糖液の投与が基本で、中心静脈からの投与となるわけですが、実は当院では中心静脈からのTPN適応は少ないのです。現在、私がデータを取りながら検証していますが、末梢からでも24時間かけて脂肪製剤(ダイズ油)を投与すればほぼ100%のRER(安静時要求エネルギー)を投与できます。

但しこの場合24時間かけて投与することが重要で、もし12時間で投与するならば必要総エネルギー量の24分の12=50%を投与しなければなりません。同様に10時間かけて投与する場合は24分の10で約41%です。

もちろん中心静脈からの投与を全く行わないわけではないのですが、現在販売されている中心静脈カテーテルは小児用でも動物に使用するには長すぎるので、中型犬以下の場合は固定と感染予防に気をつかわねばなりません。15センチくらいの中心静脈カテーテルがあればよいのですが。こういう理由から私は末梢から脂肪製剤を投与しています。

以上、代表的な輸液剤の使用法について述べました。


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