学術情報
ラテックスアレルギーから身を守る
ラテックスアレルギーはどんな病気か?
天然ゴム(natural rubber latex)製品に接触することによって起こる蕁麻疹、 アナフィラキシーショック 、喘息発作などの即時型アレルギー反応をラテックスアレルギーといいます。
天然ゴム製品は、手袋、カテーテル、絆創膏など医療用具に多くあり、先生方や動物看護師のみなさんが日頃から接触する機会が非常に多いものです。 最近は院内感染の予防のため医療従事者のゴム手袋の使用頻度が高くなったため、欧米では罹患率が急速に上昇しました。
また、バナナやアボカドなどの特定の食物に含まれる蛋白質と交叉抗原性を示すこともあり、ラテックスアレルゲンに感作されると、これらの食物を食べたときに蕁麻疹やアナフィラキシーショックを起こすことがあります。(これをラテックス・フルーツ症候群といいます。)
この病気とは違います。
天然ゴム製品との接触で起こるアレルギーに接触性皮膚炎という病気があります。これは天然ゴム製品の製造過程で添加される化学薬品が原因で、この化学薬品により感作されることで起こる湿疹です。この病気は遅発型アレルギー反応によって起こるので特異IgE抗体の産生はありません。
どんな人がなりやすいのか?(ハイリスクグループ)
米国FDA(Food and Drug Administration)が1992年にラテックスアレルギーの注意を報告するまでに、アナフィラキシーショックによる死亡が15名、アナフィラキシーショックが1000名以上報告されています。
ハイリスクグループと言われているなかに医療従事者が含まれ、特に手指にアトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎がある場合にはリスクが高まります。 日本国内の報告は、欧米に比較して低く、医療従事者で1.1〜3.8%がラテックスアレルゲンに感作されていると報告されています。
欧米での ラテックスアレルギー頻度 |
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一般 | 0.8% |
手術室医師 | 7.5% |
手術室看護師 | 5.6% |
歯科医師> | 13.7% |
その他医療従事者> | 1.3% |
二分脊椎症患者 | 36.0% |
ラテックスアレルギー発症のハイリスク群 1)
- 医療従事者
- 二分脊椎症 ※1や先天的泌尿器生殖器系奇形のある患者など、頻回手術の既往歴のある患者
- 花粉症、アレルギー性鼻炎、喘息、アトピーなど、アレルギー性疾患の既往歴のある患者
- アボカド、キウイ、バナナなどの果物に食物アレルギーの既往歴のある患者
※1:生まれつき脊椎の癒合が完全に行われず一部開いたままになり、脊髄が脊椎の外に出て癒着や損傷を起こした状態。主に腰椎、仙椎に発生し、その部位から下の運動機能と知覚の麻痺を生じたり、脳の異常や膀胱・直腸機能に影響を及ぼします。
1.ラテックスアレルギーはどのようにして起こるのか?
天然ゴム製手袋やカテーテルなどの最終製品に残留したラテックス蛋白質(アレルゲン)は、皮膚と接触し汗によって水溶性蛋白質が溶出します。このとき手袋にまぶしてあるパウダーによって皮膚表層に傷がつきアレルゲンが侵入しやすくなります。粘膜からは溶出したアレルゲンが吸収されます。またパウダーに付着したアレルゲンは、手袋使用領域で空気中に飛散し吸入アレルゲンとして作用することがあります。
2.天然ゴムの何が原因なのか?
天然ゴムの原料となるゴムの木は、そのほとんどがHevea brasiliensisという種類であり、東南アジア地域に集中して栽培されています。ラテックス(latex)は、成長したゴムの木の幹に傷をつけそこから得られた白い樹液であり、多くの蛋白質が含まれています。ゴム手袋など最終製品にもこの蛋白質が残留して皮膚と接触することで、主に経皮的に感作されラテックス特異IgE抗体産生が起こります。3.ラテックスアレルギーではこんな症状が起こります。
ラテックスアレルギーで最も多い症状は、接触蕁麻疹です。手袋を装着した部分に、掻痒、発赤、膨疹、水疱形成が起こり、全身に広がることもあります。アナフィラキシー・ショックに移行する場合もあります。呼吸器系症状は、接触蕁麻疹が全身に波及した場合や、手袋パウダーに付着したラテックスアレルゲンを吸入した場合に起こります。医療従事者がラテックスアレルギーを発症し、喘息発作、アナフィラキシーを起こすため職場を変更せざるを得なくなった例が欧米では多数報告され、訴訟も起こっています。国内でも同様の症例が発生しています。
4.どうすれば予防できるのか?
ラテックスアレルギーの治療は、現在のところまず回避しかありません。診断がつけば症状が進行しないように日常生活、医療用具に注意し回避する方法を考えます。完全に除去されれば過敏症の改善が得られる可能性があります。予防は、医療従事者のようなハイリスクグループでは、ラテックス製品を回避することです。国内での対応として、厚生労働省が1992年に医薬品等安全性情報で、米国FDAの発表を日本語化して発表しました。
その後、1996年には日本ラテックスアレルギー研究会が発足し、研究会を毎年開催し、民間、行政、メーカーが討議・協力し、ラテックスアレルギーの予防・啓発活動を行っています。
1999年には、国内でも医療用具の添付文書にラテックスアレルギーに注意するよう表示する法律が制定されました。