学術情報
錠剤の投薬方法
- 株式会社プロミクロス
獣医師 徳永 秀
臨床現場・家庭で苦労されることの多い薬の投薬方法について、ご紹介いたします。
動物は種差・個体差はあるものの新しいものを警戒する習性から薬を嫌がる事が多いと聞きます。
犬猫の場合ですと、投薬実施者の手技の熟練度など様々な要因が関係してきます(表1)。投薬に臨まれる前にこれらの要因を頭に入れておくと、的確な投薬の一助となるでしょう。
人間同様、犬や猫の舌の表面にも味を感じる受容器の味蕾が存在し、人間と比べてその数は多くないものの、投薬の際にも影響を及ぼすと言われています(表2)。薬は苦いものが多いため、苦味を感じる舌の味蕾を持たないと言われている犬より、警戒心が強く苦味や酸味を感じる舌の味蕾を持つ猫の方が苦労される方が多いと聞きます。
一方、肉食動物である猫の顎運動は上下方向のみなので口が開きやすく慣れれば投薬しやすいとも聞きます。一概にどちらの動物が投薬しやすいかは言えませんが、顎運動の方向も含めた動物の体の構造を頭に入れておくと良いと思われます。
ここでは錠剤の投薬方法の一例を犬猫それぞれご紹介いたします。
■表1
投薬に影響する主な要因 | 具体例 |
---|---|
信頼関係 | ・口周りに手を触れられる ・子犬、子猫の頃からの練習 ・投薬実施者との信頼関係 |
技 術 | ・投薬実施者の手技の熟練度 ・投薬補助サプリメントを使用するなどの工夫 ・投薬しやすいタイミング、状態の見極め |
状 況 | ・動物が落ち着ける環境 ・薬の性状、大きさ ・投薬される動物の状態 ・個体差、種差 ・投薬される動物の口の構造、体の大きさ |
■表2
動物種 | 味蕾の数 | 補足 |
---|---|---|
犬 | 約1,500 〜 2,000 程度 | 酸味や甘味には敏感 苦味や塩味には比較的鈍感 |
猫 | 約500 程度 | 酸味や苦味には敏感 甘みには鈍感〜無反応 (一部のアミノ酸には反応) |
人間 | 約18,000 〜 20,000程度 | 一般的に5 つの味覚を感知する |
錠剤の投薬方法
【 犬 】
【 猫 】
※上記の方法はあくまで投与方法の一例です。
それぞれの動物の状態に合わせた投薬方法を選択して下さい。投薬の際には噛まれないよう十分にお気をつけ下さい。
撮影協力:宮川動物病院(新潟県)
投薬が的確に行われるとそれだけ動物のストレスや負担は軽くなり、薬に対する警戒心も低くなると言えます。
嫌がる動物に無理に投薬しようとすると、ストレスや誤嚥のリスクが高くなり、状態の悪い患者では虚脱する可能性もあるため、的確な投薬を行うための工夫が必要になると言えます。投薬の工夫にはメリット・デメリットがあるので、それぞれの動物に合った工夫を選択する必要があります。(表3)。実際には投薬を行う際には噛まれて怪我をしないよう十分にお気をつけ下さい。
動物がちゃんと薬を飲めたら誉めてあげ、投薬されると良い事があると刷り込むと良いでしょう。動物にとって投薬が、嫌なものではないと出来るだけ習慣づける事が、効果的な治療計画を行う上で重要と言えます。家庭での投薬は飼い主様が主に行うため、投薬の方法やコツを教えて差し上げると、飼い主様との良いコミュニケーションのきっかけとなり、飲み忘れや飲み間違えを防ぐ一助にもなります。
確実な治療を行うためにも的確な投薬を行う事は必要不可欠と言えますが、それぞれの動物の状況に応じた判断や手技の選択をする必要があるため、日頃から練習や皆様なりの工夫をして備えておくと、より的確な投薬の実践への近道となるでしょう。
本コラムが的確な投薬を実践する一つの参考にしていただければ幸いです。
■表3
投薬の工夫 | 具体例 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
包む | ・ウェットフードに包む ・投薬補助サプリメントを使用する |
・嗜好性が高い物が多い ・薬ではなくおやつだと動物に刷り込ませられる(投薬に対する警戒心を下げられる) |
・動物の状態によっては与えていけない物もある ・量が多いと栄養バランスが崩れる原因になる ・費用がかかる |
器具を使う | 投薬補助器具を使用する | ・動物に噛まれるリスクが低くなる ・手技が簡便になる |
・動物が器具を噛んで破損させる可能性がある ・道具を見ただけで逃げ出す可能性がある(悪い意味での刷り込み) ・費用がかかる |
形を変える | ・カットして小さくする ・粉にしてフードにかける、水に溶かす |
・動物が薬と気づかず飲んでくれる場合がある ・小さいサイズなので投薬しやすい ・水やフードと一緒に飲んでくれる場合がある |
・手間がかかる ・薬全量を飲んだか判断しにくく、薬だけ避けられる可能性がある ・形状が変わる事で投薬間違えのリスクが高まる |
(文責:獣医師 徳永)
【 包む 】投薬補助サプリメント
動物種 | 特長 | 商品 |
---|---|---|
犬、猫 | 抜群の嗜好性で投薬をラクに | |
犬、猫 | 薬剤投与を的確に |
【 器具を使う 】投薬補助器具
動物種 | 特長 | 商品 |
---|---|---|
犬、猫 | 患者の口にやさしいインプッター |
【 形を変える 】錠剤カッター
特長 | 商品 |
---|---|
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