最小侵襲アプローチで行う片側椎弓切除術

公益社団法人 日本動物病院協会 認定外科医
オールハート動物リファーラルセンター 院長
獣医師 池田 人司

近年、本邦において人気犬種であるミニチュア・ダックスフントの飼育頭数の増加に伴い、日常の臨床現場において椎間板ヘルニアの症例も確実に増加している。現在ではCTスキャン、MRI装置などの普及により、脊椎周囲および脊髄の精密な画像診断が可能となった。
しかし、患者の中には急性に発症、進行性に悪化し深部痛覚を消失する症例も少なくない。そのような理由から、たとえ当院のような一次診療施設であっても“待ったなし”の緊急脊髄減圧手術をいつでも行えるように備えておく必要がある。胸腰部で最も一般的な手術方法は片側椎弓切除術であり、当院で行っている術前の準備から最小侵襲アプローチのコツについて解説する。

脊髄減圧手術の流れ(片側椎弓切除術)

【1】患者の評価

脊髄造影検査、CT検査、MRI検査などで病変部位の特定を行う。
病変の位置決め、神経学的検査、特に甚急性に発症したものでは脊髄軟化症による死亡の危険性についても十分説明しておく。

【2】術前のプロット

全身麻酔下で病変付近の棘突起に滅菌18Gの注射針を挿入し、ランドマークとする(A)。
(滅菌したニッパーで切断し皮下に埋める。)
※最後肋骨からまっすぐ上方に線を引くと第2腰椎になることも覚えておく。

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エックス線撮影を行いどこの部位にランドマークがあるか確認する。
これにより周囲に余計な筋肉のダメージを与えることなく、最小侵襲で手術部位にアプローチが可能である(B)。

腹臥位に保定し皮膚の上からランドマークを触診し、フィルムドレープを貼る。

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【3】片側椎弓切除術

ランドマークを中心にして前後1〜2椎体分の皮膚を切開し、病変部領域の胸腰部筋膜を切開する。

病変部の関節突起に付着した傍脊椎筋の腱をバイポーラーなどを用いて凝固切開を行う。

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ゲルピーリトラクター(アングルタイプが望ましい)を用いて開創を行う。

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関節突起に付着した筋肉をウィリッガー骨膜起子、フレア式骨膜起子を当てながら剥離を行う。

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露出した関節突起をダブルアクションロンジュールで切除する。

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ハイスピード・ラウンドバー(高速回転のこぎり)、または超音波骨切削装置(ソノキュア・東京医研)を用いて外皮質骨、海綿骨を除去する。
骨に余計な熱を与えないように冷却のための注水とサクションを行う。

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病変部の前後の棘突起にバックハウスタオル鉗子でやさしく頭側と尾側に牽引し脊柱管が広がるようにする。林刃物製のラミナパンチ(*)を用いて丁寧に内皮質骨を除去する(C)

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*ラミナパンチ
ラミナパンチの非常に優れているところは、国内で人気のミニチュア・ダックスフントに最も相応しいサイズで最小侵襲で脊髄に余計な損傷を与えることなく使用できることと、1.0mm、1.5mm、2.0mmの3種類から適当なサイズを選ぶことができること。さらに価格に妥当性がある点である。
※小型犬にも適応できるように1.0mmからのサイズを用意してあり、脊髄に余計な損傷を与えることなく椎弓切除術が可能である。

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硬膜外の脂肪組織などを確認しながら、逸脱した椎間板物質を椎間板鋭匙、ディセクターを用いて取り除く(D)。

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術中に出血があれば、ゼルフォームなどで止血を行う。

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脊髄減圧術終了後に硬膜外に自家皮下脂肪組織のグラフトを行う。

切開した筋肉はPDSU2.0〜3.0で縫合を行い、皮下はモノクリル3.0〜4.0で死腔ができないように縫合する。

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術後管理は次のように行う。

術後72時間以内 術後72時間以降 抜糸後
安静に保ち、術創の冷却療法(クライオセラピー)を行う。 後肢のマッサージ、屈伸運動、タオル歩行、電気刺激などを中心としたリハビリテーションを回復するまで行う。 ライフ・ジャケットを着けてリハビリプール、アンダーウォータートレッドミルなどのハイドロセラピーを行う。

※リハビリテーションについては「動物のリハビリテーションの流れ」を参照。

残念ながら深部痛覚を失った犬では排尿、排便のケアーなどが必要である。特に尿やけ炎症には、創傷保護用ドレッシングを使用して十分注意する必要がある。また、車椅子によるケアーも非常に大切である。

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