学術コラム
薬用シャンプーを効果的に使いこなそう!
〜薬用シャンプーの選択と使用方法〜
- 帝京科学大学 動物皮膚科学研究室
准教授 関口 麻衣子
薬用シャンプーとは?
「薬用」という用語は、人での場合は主に医薬部外品に用いられることが多いようです。法律的に定義された用語でもなく、真に医学的な用語とも言えませんが、犬などのペットにおいて「薬用シャンプー(Medicated Shampoo)」と言った場合には、さまざまな皮膚トラブルへの対応やスキンケアを目的としたシャンプーを指して使用され、被毛や皮膚の美容や清浄化を主な目的として使用するシャンプーとは区別されています。
よって実際には、皮膚トラブルへの対応やスキンケアを主な目的とし、その効果が期待されるものであれば、動物用医薬品、動物用医薬部外品、雑貨製品(人での化粧品)の区別なく、広く薬用シャンプーと称されているのが現状です。一般的な印象としては、雑貨製品よりも動物用医薬部外品、動物用医薬部外品よりも動物用医薬品のほうが、なんとなく皮膚への効果がありそうなイメージを持つかもしれませんが、薬用シャンプーの選択はそんなに単純なものではありません。
例えば、乾燥肌の人の場合、医薬品である消毒液と化粧品である化粧水だったら、どちらを使用したらよいと思うでしょうか。フケ症の人が洗浄するものとしては、しっとり洗い上げる美容用シャンプーと、フケ取り効果の高い医薬部外品シャンプーであれば、どちらのシャンプーを使用したらよいでしょう。そのフケ症が改善した後は、比較的刺激性のあるフケ取りシャンプーと地肌を整える効果のある低刺激シャンプーのどちらを使用したほうが良いと考えられるでしょうか。
ペットの薬用シャンプーは「シャンプー」という形状をとってはいますが、その選択は私たち人の肌につけるものの選択の仕方や考え方と、基本的には同様です。美容用シャンプーが主に被毛ヘの効果を期待したヘアケアを目的としているならば、薬用シャンプーは肌(皮膚表面)に何かしらの効果をもたらすスキンケアを強く意識したシャンプーといえます。
薬用シャンプーの選び方
薬用シャンプーは、基本的にそれぞれの皮膚トラブルや肌質に合わせて選択されるものです。よって、まずそのペットの皮膚トラブルや肌質を見極めることが前提となります。皮膚トラブルの原因を肉眼のみで判断することはとても困難ですから、まずは動物病院でその皮膚トラブルをきちんと評価し、適切な薬用シャンプーを選択する必要があります。薬用シャンプーは、それぞれの皮膚トラブルに合わせて一般的には抗菌性シャンプー、角質溶解性シャンプー、保湿性シャンプー、止痒性シャンプーの4つに分類されています。
A:大切なポイントは主に4つあります。1つ目は薬用シャンプーの選択、2つ目は薬用シャンプーのやり方、3つ目は薬用シャンプーの頻度と使用期間、最後は薬用シャンプーの見直しです。これらのポイントをきちんと押さえることで薬用シャンプーを効果的に使用することができると考えられます。
1.薬用シャンプーの選択
2.薬用シャンプーのやり方
3.薬用シャンプーの頻度と使用期間
4.薬用シャンプーの見直し
A:その子の皮膚症状に合った薬用シャンプーの選択は、基本的には動物病院の先生に行っていただくものです。具体的には、皮膚症状の原因を検査によってきちんと調べ、さらに見た目の特徴(臨床所見)とも合わせて、その子の皮膚トラブルの状態をできるだけ正しく予測してから選択します。
A:そうです。薬用シャンプーを使用するうえで、正しく予測したい皮膚トラブルには主に4つのタイプがあります。
1つ目は、皮膚表面の病原体の増殖による皮膚トラブルです。この皮膚トラブルをきちんと予測するためには、皮膚検査で細菌や酵母菌(マラセチア)の存在を確認する必要があります。見た目の特徴としては、ブツブツ(丘疹)、カサブタ(痂皮)、赤み(発赤)、べたつき(脂漏)、臭い、痒みなどがみられます(写真1、2)。このような皮膚トラブルに対しては主に抗菌性シャンプー(表1)が選択されます。
2 つ目は、皮膚表面の角質層の過剰な増殖による皮膚トラブルです。この皮膚トラブルでは、皮膚表面に病原体がいることも、いないこともあります。見た目の特徴としては、フケ(鱗屑)、カサブタ、べたつき、肥厚、黒ずみ(色素沈着)などがみられます(写真3、4)。このような皮膚トラブルに対しては主に角質溶解性シャンプー(表2)を選択することがあります。
3 つ目は、つくりの弱い角質層にみられる皮膚トラブルです。この皮膚トラブルでは、皮膚表面に病原体のいないことが多いようですが、見た目に乾燥やフケが多くみられ、慢性的に脱毛している皮膚に伴ってみられることもあります(写真5、6)。このような皮膚トラブルに対しては、主に保湿性シャンプー(表3)が選択されます。
最後の皮膚トラブルのタイプは痒みです。この皮膚トラブルでは、皮膚表面に病原体がいることも、いないこともあり、見た目には赤み、ひっかき傷(掻破痕)、脱毛などがみられます(写真7、8)。このような皮膚トラブルに対しては止痒性シャンプー(表4)が選択されます。
1.細菌や酵母菌の増殖による皮膚トラブル 抗菌性シャンプー
2.角質層の過剰な増殖による皮膚トラブル 角質溶解性シャンプー
3.角質層のつくりの弱さによる皮膚トラブル 保湿性シャンプー
4.痒みによる皮膚トラブル 止痒性シャンプー
主な皮膚トラブルと肌質
■表1:細菌・マラセチア(酵母菌)の増殖による皮膚症状
( 左:写真1 )
細菌の増殖による表皮小環(体幹背側)→膿皮症
( 右:写真2 )
マラセチアの増殖による発赤、脂漏(頚部腹側)
→マラセチア皮膚炎
主な適応
膿皮症、マラセチア皮膚炎など
皮膚トラブルに対する 薬用シャンプーの分類 | 主に動物病院で 処方されている製品 | 販売元 | 皮膚への効果が期待される主な成分 | 用途 | 備考 | 商品 |
---|---|---|---|---|---|---|
抗菌性シャンプー (抗菌性成分を含むもの) 主な抗菌性成分 ・クロルヘキシジン ・乳酸エチル ・過酸化ベンゾイル ・ポピドンヨード ・硝酸ミコナゾール (抗真菌剤) その他の抗菌性が期待される成分 ・ヒノキチオール ・ティーツリーオイル ・単糖類 ・酵素(ラクトペルオキシダーゼなど) |
ノルバサンシャンプー0.5 | キリカン洋行 | 酢酸クロルヘキシジン0.5% | シャンプー | ||
薬用酢酸クロルヘキシジン シャンプー | フジタ製薬 | |||||
ノルバサンサージカルスク ラブ | キリカン洋行 | 酢酸クロルヘキシジン2% | 殺菌消毒剤 | シャンプーではないが、局所的に使用することがある | ||
マラセブ | グルコン酸クロルヘキシジン2%、 酢酸ミコナゾール2% | シャンプー | 抗真菌剤を含む | |||
エチダン | ビルバックジャパン | 乳酸エチル10%、キトサンサクシナミド | ||||
ビルバゾイル | 過酸化ベンゾイル2.5% | |||||
VET Solutions BPO-3 シャンプー | 共立製薬 | 過酸化ベンゾイル3%、グリセリン、カルボマー、 パンテノール、ポリオキシエチレンラノリン(75)、被毛保湿成分 | ||||
薬用ヨードシャンプー | フジタ製薬 | ポピドンヨード2%、アロエベラ末 | ||||
コラージュフルフルネクスト | 持田ヘルスケア | 硝酸ミコナゾール0.75%、プロピレングルコール | ヒト用、抗真菌剤を含む |
■表2:異常な角質形成によるフケ(鱗屑)、脂性肌、肥厚
( 左:写真3 )
脂漏、肥厚、発赤、鱗屑(頚部腹側)→アトピー
( 右:写真4 )
過剰な鱗屑、脂漏(体幹背側)→脂漏症
主な適応
原発性/ 続発性脂漏症、遺伝性角化異常症(例:脂腺炎、魚鱗癬)など
皮膚トラブルに対する 薬用シャンプーの分類 | 主に動物病院で 処方されている製品 | 販売元 | 皮膚への効果が期待される主な成分 | 用途 | 備考 | 商品 |
---|---|---|---|---|---|---|
角質溶解性シャンプー (角質溶解性・角質形成性・脂質溶解性成分を含むもの) 主な角質溶解性・角質形成性・脂質溶解性成分 ・イオウ ・サリチル酸 ・二硫化セレン ・過酸化ベンゾイル ・コールタール |
薬用サルファ・サリチル酸シャンプー | フジタ製薬 | イオウ2%、サリチル酸2%、マイクロパール | シャンプー | ||
薬用コールタールシャンプー | コールタール液5%、マイクロパール | 取り扱いなし | ||||
ケラトラックス | ビルバックジャパン | サリチル酸ナトリウム1%、単糖類(D- マンノース、D - ガラクトース、L- ラムノース)、グルコン酸亜鉛、VB6、必須脂肪酸(リノール酸、γ -リノレン酸)、ティーツリーオイル | ||||
VET Solutions ユニバーサルメディケートシャンプー | 共立製薬 | サリチル酸2%、クロルキシレノール2% | ||||
カニマールワン | フジタ製薬 | 二硫化セレン1% | ||||
セリーングリーン | 大日本住友製薬 | 取り扱いなし |
■表3:異常な角質形成による乾燥肌、刺激に弱い敏感肌
( 左:写真5 )
乾燥、鱗屑、脱毛(臀部)→脱毛症X
( 右:写真6 )
脱毛、乾燥(体幹背側)→毛周期異常に関連した脱毛症
主な適応
膿皮症、マラセチア皮膚炎など
皮膚トラブルに対する 薬用シャンプーの分類 | 主に動物病院で 処方されている製品 | 販売元 | 皮膚への効果が期待される主な成分 | 用途 | 備考 | 商品 |
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保湿性シャンプー (保湿性成分/ 角質補修成分を含むもの) 主な保湿性成分 ・グリセリン ・プロピレングリコール ・キトサンサクシナミド ・リピジュアR ・ラノリン ・尿素・乳酸 ・マイクロパール ・スフェルライトR 主な角質補修成分 ・セラミド関連物質 (セラミド、バリアセラミド、セラキュートR、フィトスフィンゴシンなど) |
セボダーム | ビルバックジャパン | グリセリン、キトサンサクシナミド | シャンプー | ||
アデルミル | 単糖類(D- マンノース、D - ガラクトース、L- ラムノース)、セラミド、コレステロール、必須脂肪酸(リノール酸、γ - リノレン酸) | |||||
ヒノケア(TM) | バイエル | セラキュート(R)、持続型ヒノキチオール、 リピジュアR、グリチルリチン酸ジカリウム、グリセリン | ||||
花王 ヘルスラボ シャンプー | 花王 | バリアセラミド1% | ||||
デュクソシャンプー | 日本全薬工業 | フィトスフィンゴシン0.1% | 取り扱いなし | |||
ブルーシャンプー | フジタ製薬 | ラノリン | ||||
ザイマックスシャンプー | PKBジャパン | ラクトペルオキシダーゼ、ラクトフェリン、リゾチーム |
■表4:炎症による痒みが起こりやすい肌
( 左:写真7 )
舐め壊しによる脱毛、発赤(下腹部)→アトピー
( 右:写真8 )
舐め壊しによる脱毛、発赤(下腹部)→アトピー
主な適応
アトピー、その他のアレルギーなど
皮膚トラブルに対する 薬用シャンプーの分類 | 主に動物病院で 処方されている製品 | 販売元 | 皮膚への効果が期待される主な成分 | 用途 | 備考 | 商品 |
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止痒性シャンプー (止痒性成分を含むもの) 主な止痒性成分 ・オートミール ・アロエベラ ・グリチルリチン酸ジカリウム ・ジフェンヒドラミン(本成分含有シャンプーの国内販売はなし) ・ヒドロコルチゾン(本成分含有シャンプーの国内販売はなし) |
エピスース | ビルバックジャパン | コロイド状オートミール、グリセリン、 キトサンサクシナミド | シャンプー | ||
オーツシャンプーエクストラ | 日本全薬工業 | 加水分解オーツプロテイン、オーツβグルカン、オーツアベナンスラマイド | 取り扱いなし | |||
Dermcare アロビーンシャンプー | キリカン洋行 | オートミール抽出物、アロエベラ | ||||
VET Solutions アロエ&オートミールシャンプー | 共立製薬 | アロエベラジェル、オートミール、乳酸 | 取り扱いなし |
写真協力:よしむら動物病院(埼玉県鳩ケ谷市) 稲川動物病院(茨城県下妻市)