学術情報

合成吸収糸 モノフィラメントの評価

中島尚志
北里大学獣医学部卒業。全国の動物病院からの依頼を受けて年間600件以上の手術を執刀する。

「モノフィラメントはゆるみやすい」は本当か?

それから、モノフィラメントよりもブレイドのほうがしっかりと結べると言われますが、実は必ずしもそうではないのです。

確かに感覚的にはブレイドはきっちりと結べた気になります。ですが、実は2回目以降の結び目が固く結べているだけであって、1回目の結び目が締まりきっていないことがあるのです。結果として傷口がしっかりと縫合できていないということがありえます。ブレイドを使用する際に気をつけるべきポイントです。

一方でモノフィラメントは性質上そのようなことはなく、正しい結び目を目視することができます。モノフィラメントは4回、5回結紮しないと緩むと言われますが、1回目から正しい方法であれば、少ない結紮回数でもきちんと結ぶことができます。

-モノフィラメントの針糸を使用する際の具体的なケースと選択基準を教えてください。

繰り返しになりますが、組織へのダメージと感染等術後に起き得るリスクを考えて、適材適所で選択します。

消化管等の感染リスクの高い部分にはモノフィラメントを使います。また、軟骨等の硬い部分は丸針を使いたいので、針の切れが良いものを選びます。膣なども案外硬いので、その対象になりますね。個人的にはPDSUは針も糸も優れていると思います。それから、皮膚を縫う時などはモノソフを使うことが多いです。針の切れも良くコスト的にも有利です。さらにいえば、皮膚を縫うには弱彎の針が適しています。動物は人間とは皮膚と筋肉の付き方に違いがあって、皮膚を持ち上げて縫合することができますから弱彎を使いやすい。弱彎のほうが、針に任せる感覚でまっすぐに進めていけますから。

他にも、選択基準に吸収期間や抗張力保持期間があります。組織はだいたい2週間程度で付くので、抗張力保持期間が2週間以上あるというのはひとつの基準です。それから、例えばダックスフントの手術では、しばしば術後の合併症が起こります。これは感覚的に言えば、どうも吸収の早い糸ほど起こりやすいように思います。そのような時に、より吸収期間の長い縫合糸を選択するのも方法かもしれません。

組織部位別 中島先生による縫合糸の選択基準

組織部位 縫合糸の種類 備考
皮膚
モノフィラメント

コスト的に有利なモノソフを使用。サイズは5-0〜4-0。
形成の場合は7-0〜6-0。針は弱彎が良い。
腸管
モノフィラメント
感染リスクを考え、キャピラリー現象の起きないモノフィラメントを使用。
筋肉
モノフィラメント
組織がもろいため、柔らかくてすべりの良い糸を選択する。
皮下脂肪
モノフィラメント/ブレイド
組織が多少傷ついたり、縫合部が多少緩んでも大丈夫なとき等は、
ブレイドを使用することもある。
靭帯
ナイロン
時間をかけて組織がなおっていくような場合には、吸収糸は使わない。
軟骨・口蓋
モノフィラメント
切れの良い丸針を使うことで、組織が裂けてしまわないようにする。糸もなるべく組織を
傷つけないようにするため、モノフィラメントが好ましい。トータルバランスでPDSUを使用。
循環器 ポリプロピレン 組織反応を最小にしたい箇所、また結紮の確実性を上げたい箇所では、
ナイロンよりもポリプロピレンを使用する。

針の種類と中島先生のコメント

針の種類 コメント

丸針

 



基本的には切れの良い丸針を使用する。
それにより、組織を傷めない。
感覚としては、エチコンの切れが良く、最近はタイコの針も近づいている。

鈍針

 


肝臓などの臓器の縫合において、裏側が見通せないときに使用する。
裏側に針の貫通部分を指で誘導することで、裏側が見通せない時に他組織を傷つけずに縫合できる。

角針

 


組織を傷めやすいので、基本的には使いたくない。
ただし、皮膚の縫合では、使用することあり。

逆三角針

 



ヘラ型針
きわめて皮膚の薄い部分の埋没縫合のときに使用する。

-コストの高い糸を使用することを患者側に説明する際のポイントはありますか?

先に述べたようなリスク要因から、一言で言えば手術の成功率が違うということです。経験値で言えば2〜3割の違いがあるように感じます。きちんと説明できれば、患者側もよりリスクの低い方法を選ぶことに同意されると思います。

一方で、リスクの少ない簡単な手術、例えば避妊や去勢では、ある程度のコストダウンの必要も現実問題としてあるでしょう。

術者のストレスというリスク

糸のメモリも大切なポイント
糸を取り出したとき、収納時のクセが付きにくく、なるべくすんなりと真っ直ぐになることも、術者のストレスを軽減する大切なポイント。

それから、獣医師は縫合糸を選ぶ際に、感染や合併症等の術後のリスクや患者側へのコスト負担の面は意識していると思いますが、術者のストレスの違いというリスク要因についてはあまり考慮されていないと感じます。

例えば針の切れの違いで考えれば、何十針と縫う手術の場合、術者のストレスの違いはかなりのものになると思います。それが手術全体の成否にかかわる面もあると思います。この点も、高品質のものを選択すべきであるという大きな理由になると思いますね。

私は全国の動物病院に依頼されて手術をしています。かなり困難なケースも少なくはありませんが、求められる成功の期待値は大学病院以上かもしれません。そのすべての責任を負っているわけですから、商品を選択する時点のミスも許されません。縫合時の針糸は、その最たるものだと思います。

モノフィラメントが評価されているのには、やはりそれなりの理由があるようです。一方で、患者側の負担等の観点も重要な要素です。手術の品質やリスクマネージメントとコストのバランスを取りながら、先生方の選択の幅は広がっているようです。



価格改定のご案内 更新

カテゴリーから探す


便利サービス

開催中のキャンペーン



pagetop