学術コラム

臨床に役立つ点眼薬の知識

どうぶつ眼科EyeVet 院長小林一郎
日本大学獣医学科卒業。都内動物病院勤務後、オハイオ州立大学を経て、2001年どうぶつ眼科EyeVet開業。
現在、動物病院や大学病院からの紹介による眼科診療を完全予約制で行っている。

炎症性眼科疾患に対するステロイドの使い方

ステロイドの投与には、点眼、経口投与、注射という3つの選択肢があります。一番使用頻度の多いのが点眼ですが、点眼薬には、@角膜浸透性が強いタイプとA角膜浸透性の少ないタイプの2種類があります。角膜や結膜といった眼表面に効かせたい場合はデキサメタゾン0.1%(タイプA)の点眼、眼の中の前ぶどう膜に効かせたい場合はプレドニゾロン1%(タイプ@)の点眼、後ぶどう膜や網膜に効かせたい場合はプレドニゾロンの経口投与、というように、効かせたい部分がどこかを考えて投与方法を選ぶことが重要です。

ステロイド点眼薬は濃度が一つのポイントとなります。メラニン色素の多い日本人には低濃度でも効果があるので、国内では低濃度の点眼薬が主流ですが、動物には効果の弱すぎる場合が多いかもしれません。「デキサメタゾンの点眼で症状がよくならない」という相談を受けることがあり、濃度を確認すると0.02%だったということがありました。良好な結果が得られたという海外の文献等でも、0.1%が一般的です。先生方の使われているデキサメタゾンの濃度をもう一度確認してみてはいかがでしょうか。

ステロイドで問題となるのが副作用です。眼の表面にカルシウムやコレステロールなどが沈着する、血管侵入を抑制する、傷が治りにくくなるなどの副作用を気にして使いたがらない方がいる一方で、「とりあえずステロイド」という方もいます。どちらもあまり好ましいとはいえません。炎症性、免疫性の疾患にステロイドを使うと一気に状態がよくなり、動物のQOLを改善できます。根本的な解決とならないことが多いので、きちんとした診断の下で計画的に使用回数を減らす必要はありますが、長期間使っては絶対にいけないわけではありません。角膜に傷がないかなど、基本的なことを確かめて正しく使用する事を心がけてください。

これだけは常備しておきたい点眼薬

分類 成分名 商品名 概要
抗菌剤 オフロキサシン グラム陽性球菌からグラム陰性桿菌、および嫌気性菌にまで広い抗菌スペクトルを有する。角膜浸透性。
エリスロマイシン 一般的にグラム陽性球菌に強く、グラム陰性球菌にも強い。角膜浸透性少ない。
散瞳剤 アトロピン硫酸塩水和物 副交感神経の働きを抑えて、瞳孔を開かせる作用がある。
トロピカミド 副交感神経の働きを抑えて、瞳孔を大きくする作用がある。通常、虹彩炎などの目の中の炎症の治療に使われる。
緑内障治療剤 イソプロピルウノプロストン PG F2α誘導体であるイソプロピルウノプロストンは、PG受容体に作用してぶどう膜強膜流出路からの房水排出量を増加させることにより、眼内圧を下げる。即効性は少ないが、犬では眼内圧を下げる強い作用がある。

※PG=プロスタグランジン

ラタノプロスト PG F2α誘導体であるラタノプロストは、PG FP受容体に選択的に作用し、ぶどう膜強膜流出路からの房水排出量を増加させる。犬では即効性があるため、緊急ドラッグとして用いる。

※PG=プロスタグランジン

ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩 ドルゾラミドは毛様体に存在する炭酸脱水酵素Uを選択的に阻害して、房水産生を抑制する。β遮断薬のチモロールの作用機序は、房水産生を抑制することにより、眼内圧降下作用を示すと考えらている。
β遮断薬に炭酸脱水酵素阻害薬を配合した点眼薬は、国内では初めてだが、海外では緑内障・高眼圧症治療薬として広く浸透している。
ステロイド・眼科コルチゾン製剤 プレドニゾロン酢酸エステル プレドニゾロン1%には炎症を取る強い作用があることから、症状の強い時や視覚障害の恐れのある重症例、ぶどう膜炎、手術後の炎症などに使われる。炎症による腫れや赤みを抑え、痒みや痛みを緩和する。角膜浸透性強い。
ジフルプレドナート 既存のステロイド点眼液で充分な効果が得られない重篤な内部性炎症(ぶどう膜炎等)に対しての有用性が期待される。海外輸入しか手に入らない上記プレゾニドロン1%に替わる手段として有用である。角膜浸透性強い。
デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム 眼表面である結膜や角膜の炎症性眼科疾患に使われる。デキサメタゾン0.1%には炎症を取る強い作用があり、動物の疾患のように強く症状が出てしまう症例には、0.02%ではなく0.1%を用いる。角膜浸透性なし。
非ステロイド抗炎症剤 ジクロフェナクナトリウム ぶどう膜炎前駆物質であるPGの生合成を抑制する作用がある。水晶体誘因性ぶどう膜炎、白内障手術後などに適応し、緑内障の手術や内眼部レーザー手術等への応用が期待される。術後の炎症・痛みの管理にも良い。
プラノプロフェン 炎症を引き起こすPGの生合成を抑制することにより、目の炎症、腫れ、発赤や痛みなどの症状を抑える。外眼部および前眼部の炎症性疾患(眼瞼炎、結膜炎、角膜炎等術後炎症)の対症療法が適応となる。角膜浸透性弱い。
角膜障害治療剤 ヒアルロン酸ナトリウム ドライアイなどで角膜や結膜が傷ついている時によく使われる。角膜および結膜表面を保護し、潰瘍治癒を促進する。また、涙液を安定化させ、目の乾燥を防ぐ作用もある。

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