最新の消化管吻合について

HJS代表・手術屋
獣医師 中島 尚志

消化管手術は臨床獣医師の基本技能であり、その優劣が症例の生命予後に直結するために、確実な手技を習得しておかなければならない。また、ほぼ完成されたと考えられている消化管縫合も常にup-dateされていることに留意し、古典的手技を刷新していくことが重要である。
消化管手術の手技は切開、切除、縫合、吻合で構成され、きわめてシンプルといえるが、それゆえに手術デザインの良否が予後を左右することから、手技とともに消化器外科の原理原則も十分に理解しておく必要がある。
手技の中では、縫合、吻合が特に重要である。消化管は部位によって解剖学的条件が異なり、また、病態に応じて最も適切な吻合を選択しなければならない。したがって、個々の手技の理論的背景を基に、さまざまな吻合法を習得して状況に応じて使い分ける能力が必要といえる。

もっとも初期の縫合は、Travers(1812)やLembert(1826)によって報告されたLembert縫合であり、この当時は、消化管縫合の治癒機転は漿膜面の結合によってなされると考えられていた。その後、粘膜下織が最も強靭であることが見いだされ、内反2層縫合であるAlbert-Lembert縫合(1881)が報告された。この縫合はリークの可能性を減少させることから今日でも胃縫合で汎用されているが、内反に作成されたカフによって狭窄を招くこと、さらに屈曲された断端の血流が阻害されることから胃以外の消化管では適応に注意が必要である。
その後、Halsted(1886)が消化管癒合の鍵が血流にあると考え、血管の豊富な粘膜下織を縫合に使用すべきと提唱した。
この概念は今日でも受け継がれているがHalsted縫合自体は現代では使用されることはない。
19世紀後半には、Hepp-Jourdan縫合やOlsen-Letwin縫合など、並置縫合が報告されている。並置縫合は、速やかな粘膜の再上皮化、良好な血管分布、コラーゲン形成の促進が達成可能であり、さらに癒着が最小限であり、内腔狭窄がないこと、24時間後強度は外反、内反以上であることから、適切な並置は最も有効な治癒を達成するとされ、今日でも消化管縫合の基本とされている。
ただし、この時代は良質な縫合糸がなかったことから内腔に糸を出さないことが基本とされていた。現代では内腔に糸を出すことが基本である。さらにこの時代には、より確実な並置縫合であるGambee縫合も報告されている。

今日の縫合でのゴールデンスタンダードは、食道へのlayer to layer縫合、胃あるいは腸管側々吻合ではAlbert-Lembert縫合、胃と腸管の吻合ではhemi-layer to layer縫合、腸管の縫合や端々吻合では単純結紮並置縫合、結腸や直腸、肛門管ではGambee縫合である。

近代の縫合は漿膜接合型と断端接合型に大別される。一般的には血流が良好で内腔が大きい胃や並置縫合で漿膜接合型縫合が、内腔が狭く、血流が不確定な腸管や食道で断端接合型縫合が推奨される。

漿膜接合型縫合

一般的には血流が良好で内腔が大きい胃や並置縫合

断端接合型縫合

内腔が狭く、血流が不確定な腸管や食道


縫合では糸の選択が重要である。今日では組織損傷や感染を誘発しやすいマルチフィラメント縫合糸を消化管に使用することは禁忌と考え、必ずモノフィラメント糸を使用する。さらに縫合糸はその機能性と組織適合性で選択されるべきであり、もっとも組織損傷が少なく、感染や組織反応の原因となりにくいPDSを選択すべきである。通常は4-0 丸針 針長22mmを選択する。
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感染源となりにくいモノフィラメント縫合糸でも、結紮部では毛細管現象によって保持された体液に細菌がコロニーを作ることが知られている。虚血や腹膜炎など、症例の感染抵抗性が低下している場合にはPDS PLUS を選択する。

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消化管縫合では、粘膜を断面に介在させない、すなわち、粘膜の外反を抑制することが重要である。
筋層の収縮に伴って外反した粘膜は、ときに漿膜面に突出し、漏出や治癒不全、感染の原因になる。
ポイント

縫合はできるだけ並置させた状態で行うこと、糸をできるだけ内腔で結紮すること、運針の際に、筋層を多く、粘膜を少なく拾うことが重要である。

術中に腸管を確実に保持するためには良質の腸鉗子が必要である。獣医領域では今日でも非効率的な腸鉗子の使用法が見られるが、現代の吻合では写真のような前壁―後壁の縫合が基本であり、腸鉗子は血管側から装着して先端を出さないように保持する。したがって、中央部で保持する古典的な腸鉗子は使用すべきではない。

ポイント

組織を愛護的に保持できる強さと構造、そして適切なサイズを選択すること。

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