歯科診療の基礎とテクニック

フジタ動物病院 院長
獣医師 藤田 桂一

 3歳齢以上の犬や猫の80%以上は、歯周病があり、犬・猫の中で最も多い病気と言える。ほとんどの動物病院では、歯周病の治療として歯垢・歯石除去や抜歯が行われている。現在、日本では、小型犬が人気である。大型犬と比較して小型犬では、歯周病が進行しやすく、重度になりやすい。
歯周病が進行すると口鼻瘻管、外歯瘻、内歯瘻、歯周病性下顎骨骨折などの顎顔面疾患を引き起こすばかりでなく、歯周病原性細菌や炎症性サイトカインなどが血行を経て心臓、肝臓、腎臓などの全身性に影響を及ぼすとの報告もある。
 歯周病は予防できる疾患であるので、適切なデンタルホームケアーを行うことが大切である。また、歯周病に罹患した場合は、その程度により歯垢・歯石除去や歯周外科治療、あるいは、抜歯などの適切な治療が必要である。

歯周病における口腔内検査

 歯周病の治療前に口腔内検査を行い歯周病の程度を把握する。最初は意識下(無麻酔下)で大まかに歯垢歯石の付着状態や歯肉・口腔粘膜の腫脹、色調などを検査して、その後、麻酔下で詳細に歯肉の炎症程度、歯垢・歯石の付着程度、歯の動揺度、根分岐部病変、アタッチメントロス、ポケットの深さ、ならびに歯科用X線装置を用いた口腔内X線検査を行い、歯槽頂の陰影度の消失、歯槽頂先端から歯槽硬線の不透過性の減少程度、歯根膜腔の拡大程度を確認して、歯周病の程度を確認したのち治療方針を決定する 。

【1】口腔検査、歯垢・歯石除去および抜歯を行う際に必要なもの

口腔内検査に必要な器具・器材

(1)エキスプローラー(探針)

エキスプローラー(探針)は、歯の表面の凹凸や歯垢・歯石の付着状態を調べるためのものである。吸収病巣、露髄、う蝕、破折、エナメル質形成不全、歯冠修復物と歯冠との間が平滑か否かを確認するために用いることが多い。

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(2)歯周プローブ

ポケットの深さを測定したり、歯肉の炎症程度や根分岐部病変を調べたりするためのもので、先端に目盛がついている。ポケット測定は歯軸に対して垂直にプローブを歯と歯肉の間のポケット内に25g程度の力で挿入してポケット底部に達した部位を測定する。その測定法は、歯周全周を歩くように測定するWalkingmeasurementが薦められる。

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(3)デンタルミラー

デンタルミラーは、鏡視、照明(ミラーの反射光による照明)、透過照明(歯の舌側からの反射光を透過させて頬側から直接検査する)、排除(処置中に処置の邪魔になる舌、頬、口唇を排除して処置を行いやすくする)を目的として使用される。

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(4)ピンセット( 無鉤)

ピンセットを使用して1本1本歯を把持して歯の動揺度を測定する。歯の動揺度の検査は、指で歯を動かすことで調べてもよい。通常、歯の近遠心方向、頬舌方向および上下方向に250g 程度の力をかけて歯の動きを測定する。

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歯垢・歯石除去および抜歯に必要な器具・器材

歯垢・歯石除去を行うためには、単に超音波スケーラーや鎌形スケーラーを備えていればよいということではなく、スケーラーに付随した多くの器具・器材を用意する必要がある。

(1)超音波スケーラー

超音波スケーラーは、いずれも超音波発生装置で発生した超音波の電気出力をハンドピース内で振動エネルギーに変換してインサートチップの先端に超微振動を与える。超音波振動により発熱が生じるためにインサートチップには注水を行うが、超音波により、この水流は噴霧状となり、キャビテーション(真空泡沫現象)が生じ、この物理的作用で歯石が粉砕される。

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(2)鎌型スケーラー(シックル型スケーラー)

ハンドスケーラーの一種で、刃部が鎌状を呈して断面が三角形である。通常、超音波スケーラーでほとんどの歯冠部の歯垢・歯石を除去した後に歯の隣接面の残存した歯垢・歯石を除去するために使用することが多い。歯肉縁下の歯垢・歯石除去には根面や軟組織を損傷しやすいために使用しない。

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(3)キュレット

主に丸い先端と刃部が片側のみに付いているグレーシーキュレットと両面に刃がついているユニバーサルキュレットがある。キュレットは、主に歯肉縁下用の歯石の除去と根面を平滑にすること、および歯肉縁下を掻爬(キュレッタージ)するために使用される。片側のみに付いているグレーシーキュレットの使用が安全である。

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「A鎌型スケーラー Bキュレット」

比較的早期に切れ味が低下するためシャープニングオイル(インスツルメントオイル)を研磨用砥石に滴下してスケーラーの刃部を使用前後あるいは使用中は随時研磨できるようにしておくとよい(写真1)。
砥石にシャープニングオイルを塗布して、刃部の背面から下部に向かって100-110度の角度で数回シャープニングする(写真2、3)。その後、刃と背面の境界部に「バリ」という削りかすができるので背面を砥石でなぞるようにしてその部位を除去する。

(4)消毒薬、洗浄液

口腔内処置を行う際には、どのような処置においても口腔内を消毒、洗浄する必要がある。口腔内における消毒薬あるいは洗浄液として多くのものが使用されている。通常、0.12%クロルヘキシジン水溶液、1.5〜3.0%過酸化水素水(オキシドール)、0.25%複合ヨードグリセリン(ポピドンヨード)、生理食塩水、超酸性水および中性水などを用いる。

注意

抜歯窩には、クロルヘキシジン水溶液、過酸化水素水(オキシドール)、複合ヨードグリセリン(ポピドンヨード)を使用すると抜歯窩内の骨新生を阻害するため使用しないように注意する。

(5)電気エンジン(マイクロモーター)

電気エンジン(マイクロモーター)は、獣医領域では歯面研磨や骨外科処置に主に用いられ、気動式か電気式であり、通常、ストレートハンドピースにラウンドバーを装着してウサギの臼歯を切削したり、コントラアングルハンドピースにプロフィカップ(ラバーカップ)やポリッシングブラシを装着して歯を研磨することに用いる。

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(6)ポリッシングブラシ、プロフィカップ(ラバーカップ)

歯垢・歯石除去後に歯面を研磨する際はポリッシングブラシとラバーカップをハンドピースに装着して使用する。通常、ポリッシングブラシには荒研磨用あるいは汚れ除去用の研磨剤を、プロフィカップ(ラバーカップ)には仕上げ用あるいは艶出し用の研磨剤を付着させて使用する。

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(7)研磨剤(ポリッシングペースト)

通常、獣医領域で使用される研磨剤は基本的に荒研磨用と仕上げ用研磨剤の2種類を用意するとよい。また、粒度が荒いものから細かいものまで順に数種類の研磨剤も販売されている。これらの研磨剤は、それぞれ、汚れ除去用、歯垢・歯石除去後の一次研磨用、二次研磨用、および艶出し用であり、適宜、歯面の状態により適用する。 

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(8)バキュームシリンジ

歯垢・歯石を除去する際に超音波スケーラーから噴出される水によって口腔内には水と除去された歯垢・歯石の破片、粉塵が貯留する。これらを吸引するためにバキュームシリンジを使用する。

(9)歯科用ユニット

高速エアタービン、マイクロモーター、超音波スケーラー、スリーウェイシリンジ、バキュームシリンジが装備された小動物用歯科ユニットである。この歯科用ユニットがなくてもそれぞれの器具を用意すれば処置は可能であるが、歯科用ユニット1台でこれらの器具が装備されているため大変便利である。

高速エアタービン 高速エアタービンは気動式か電気式である。通常約400,000rpmまでの回転数をもち、装備されている光ファイバーにより操作領域に照明を与える。高速エアタービン用バーは、タービンヘッドにフリクショングリップ(FG)を装着し、ハンドピースに保持される。通常、歯を分割したり、歯槽骨を切削する場合に使用することが多い。
マイクロモーター 通常約40,000rpm以下で作動する。マイクロモーター用のハンドピースには、頭部が屈曲しているコントラアングルハンドピース、真っ直ぐなストレートハンドピースがある。なお、マイクロモーターにおいても5倍速のハンドピースを装着することにより約200,000rpmまで回転数を上げることができる。ヘッドにはラッチ、ストレートハンドピースおよびフリクショングリップ(FG)の3種のシャンク用バーヘッドがある。
スリーウェイシリンジ 口腔内を洗浄する場合にウォーター(水)あるいはウォータースプレー(噴霧状水)を、乾燥する場合にエアー(空気)を使用する。ひとつのシリンジで3 つの用途がある。
(10)歯科用軟膏

歯垢・歯石を除去した後に、炎症のあるポケット内に歯科用の抗生物質軟膏を注入することがある。歯科用抗生物質軟膏は、ノズルから直接塩酸ミノサイクリン軟膏を注入する。この軟膏は抗菌作用のほかに、コラゲナーゼ活性を阻害する作用もある。

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(11)研磨用砥石(アーカンサスストーンなど、シャープニングオイル[インスツルルメントオイル])

鎌形スケーラーおよびキュレットを使用していくと次第に研磨効果が低下する。そのため、適宜、シャープニングオイルあるいは水を滴下して研磨用砥石の上で鎌形スケーラーおよびキュレットの刃を研ぐ必要がある。

研磨法
(1)診察台の上にペットシーツを敷き、一方の手で鎌形スケーラーやキュレットを把持して刃部を下方に固定して刃の先端を研ぐ人の方向に向ける。
(2)他方の手でシャープニングオイルを滴下した研磨用砥石を100〜110度の角度で上方から下方へ動かすことを繰り返す。
(3)その後、砥石を用いて刃の表面に形成される金属の削りカスである「バリ」を刃背面の先端に向かって除去する。 
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歯周外科治療および抜歯に必要な器具・器材

歯周外科治療は、予防歯科処置を行ったとしても歯周ポケットが残存したり、歯肉や口腔粘膜の状態が良くなく、そのままでは歯周組織の破壊が進行する危険性が高い場合、これらを改善して、同時に破壊吸収された歯槽骨や喪失した歯と歯周組織の付着を可能な限り再生しようとするものである。主な治療は、キュレッタージ、歯肉切除術、歯肉形成術、フラップ手術、組織誘導再生法(GTR:guided tissueregeneration)、歯肉歯槽粘膜手術などである。
一方、口腔外科治療とは、口腔および隣接組織に生じる外科治療をいう。主な治療は、抜歯、歯肉・口腔粘膜の手術、顎骨骨折手術、顎切除術、腫瘍摘出術、および嚢胞の手術などである。

(1)エレベータ、ラグゼータ

エレベータは歯根膜腔に挿入して歯を脱臼するためのものであり、ラグゼータは、歯根膜を切断するためのものである。エレベータの作業刃の幅は1mmから5mmくらいのものを数種類揃えておく。これにより歯根の大きさ(隅角の形態)に適合したエレベータが利用できる。エレベータの柄を手掌の生命線に沿って置いてしっかり握り、人差し指はまっすぐ伸ばして指先をエレベータの作業刃近くに添える。いわば、エレベータを人差し指の延長であるかのごとく使用するとよい。エレベータは、くさび作用、軸回転作用およびテコの作用を組み合わせて歯を脱臼させる。ラグゼータは歯根膜線維を切離するためだけのものであり、エレベータと異なり、ラグゼータを用いて歯を脱臼させてはならない。

理想的なエレベータ

理想的なエレベータの大きさ(長さ)は、柄を手掌で把持して伸ばした人差し指の先端から作業刃が軽度に突出している大きさがよい。この作業刃の距離は、万一、エレベータが滑脱しても重要な組織に達しない距離に設定する。

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(2)抜歯鉗子、残根鉗子

エレベータにより脱臼した歯を抜歯鉗子で把持して抜歯する。また、小型犬で重度の歯周病により下顎骨の垂直骨吸収が激しい下顎臼歯にエレベータを挿入すると医原性骨折を生じる恐れがある。このような症例には、ほとんど抜歯鉗子や残根鉗子のみを用いて主に軸回転作用により抜歯することもある。抜歯鉗子も歯の大きさに応じて歯を把持する必要がある。大きな歯に把持部が小さな抜歯鉗子を使用した場合、歯が破砕してしまう可能性があるので大きさの異なる数種類の抜歯鉗子や残根鉗子を用意しておくとよい。

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(3)ラウンド鋭匙

ラウンド鋭匙を用いて抜歯後に炎症のある抜歯窩を掻爬して新鮮血の浸潤を促し、抜歯窩の治癒をはかる。

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(4)吸収性縫合糸

抜歯後、吸収性縫合糸で歯肉を縫合する。歯垢が糸に付着しにくく組織反応が軽度であるのはモノフィラメントの吸収糸であるため、モノクリルのような吸収性縫合糸が薦められる。なお、犬や猫では、3-0〜5-0の角針を用いることが多い。

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(5)外科セット(メス、把針器、ガーゼ、メッツェンバウム、鋏など)

歯肉や口腔粘膜を縫合する際に必要な外科セットを準備する。

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(6)骨膜剥離子、粘膜剥離子

歯肉粘膜フラップを作成する際に骨膜剥離子や粘膜剥離子を用いて歯肉や粘膜あるいは口蓋を下層組織から剥離する。数種類の大きさの剥離子を用意すると便利である。

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(7)ラウンドバー、テーパーシリンダーバー(あるいは、クロスカットフィッシャーバー)

高速エアタービン用ハンドピースにラウンドバーやテーパーシリンダーバー、あるいはクロスカットフィッシャーバーなどを装着して使用する。ほとんどのバーは、タングステンカーバイドバー、ステンレススチールバーあるいはダイヤモンドバーである。多根歯を分割する際や生活歯髄切断術で歯を切断する際、およびウサギの切歯切削の際などにはテーパーシリンダーバーかクロスカットフィッシャーバーを用いる。歯槽骨を切削する場合や歯冠修復の際の窩洞形成、歯の開拡を行う場合にはラウンドバーを用いるとよい。通常、ダイヤモンドバーは、カーバイドバーより切削効率が高く、操作中、表面に接触し続けることができる。

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【2】口腔内検査

(1)歯肉の炎症程度

(写真1)

肉眼所見と歯周プローブにより軽く歯肉溝やポケット内を触診して歯肉の炎症程度を歯肉炎指数として表示する(写真1)。

GI =0 正常:炎症はなく、健康な歯肉
GI =1 軽度の炎症:色の軽度の変化や腫脹、歯周プローブで触診しても出血しない。
GI =2 中等度の炎症:発赤、腫脹、光沢があるもので歯周プローブで触診すると出血する。
GI =3 高度の炎症:著しい炎症、腫脹、潰瘍があり、自然出血の傾向があるもの。
(2)歯垢の付着程度

(写真2)

歯面に付着した歯垢の付着の程度を評価する。

DI =0 歯垢、食物残渣がない。
DI =1 歯垢が歯面1/3 以下のみ付着。
DI =2 歯垢が歯面1/3 〜 2/3 に付着。
DI =3 歯垢が歯面2/3 以上に付着。
(3)歯石の付着程度

(写真3)

歯面に付着した歯石の付着程度を評価する。また、探針(エキスプローラ―)を用いて歯石の付着状態や歯面の凹凸や齲蝕、吸収病巣などの有無やその程度も確認する(写真3)。

CI =0 歯石が認められない。
CI =1 歯石が歯面1/3 以下のみ覆っている。
CI =2 歯石が歯面1/3 〜 2/3 を覆っている。
CI =3 歯石が歯面2/3 以上を覆っている。
(4)歯の動揺度

(写真4)

歯周病により歯を支持する歯槽骨の量が減少すると歯の動揺を生じる。頬舌方向、近遠心方向、上下方向に250g程度の力を用いて歯を動かすことにより測定する(写真4)。

MO =0 生理的動揺:ほとんど動かない(0.2mm以下)。
MO =1 軽度の動揺:頬舌方向にわずかに動く。正常な動揺よりはじめて感じる程度で約0.5mmである(0.2 〜 1.0mm以下)。
MO =2 中等度の動揺:近遠心方向にも動く。頬舌方向に約1mm以上動く(1.0 〜 2.0mm)。
MO =3 高度の動揺:頬舌方向に2.0 mm以上動き、上下方向にも動く。
(5)根分岐部病変

(写真5)

多根歯の根分岐部に歯周組織の破壊が進行して歯周ポケットが形成された場合を根分岐部病変といい、下記のように測定する(写真5)。

FI =0 プローブの先が根分岐部に入らない。
FI =1 プローブの先が根分岐部に浅く入る。
FI =2 プローブの先が根分岐部に深く入る。
FI =3 プローブの先が根分岐部を貫通する。
(6)アタッチメントロス

(写真6)

歯周病が進行すると歯に付着していた歯肉の歯冠側の位置(アタッチメントレベル)が根尖方向に移動する。その移動した距離をアタッチメントロスといい、歯に付着する歯周組織の喪失を意味する。

(7)ポケットの深さ

(写真7)

歯周プローブをポケットに垂直に挿入し、歯と接触するように保持してポケット底部から歯冠に向かってプローブを上下する。歯の周囲を4箇所あるいは6箇所で測定する方法があるが、ポケットの深さは同一歯でも部位により異なることもあるため歯の全周を測定するWalking measurementが薦められる(写真6,7)。一般に正常な歯肉溝は、犬で1〜3mm、猫で0.5〜1mmである。

(8)ポケットの深さ

歯周病では初期に歯槽骨の縁の陰影度度が消失し、歯周病が進むにしたがって歯槽骨の吸収は増加して歯根膜腔も拡大する。この検査では、歯科用X線装置および歯科用X線フィルム(写真8)を使用することが望ましい。通常、撮影はフィルムを口腔内に入れる口内法により、下顎臼歯部は平行法(写真9)で、その他は2等分面法(口腔内に入れたフィルムと歯の長軸の間を二等分する角度を仮想して、その仮想線もしくは仮想面に対して直角にX線を照射する) (写真10)で撮影するとよい。

現像・定着法

(1)撮影が終了したらX線フィルムの現像・定着を行う。一液式現像の場合、現像が利用できるフィルムは、一液式現像・定着液を注入する専用のインスタントフィルムを使用する。現像・定着のセット(一液式現像の場合)として、一液式現像・定着液、ペアラー(フィルムのパッケージを開けるためのもの)、歯科用X線フィルムを用意する。

(2)歯科用フィルムで撮影したのち、一液式現像・定着液のノズルをフィルムの現像・定着液挿入口から定位置まで挿入して、挿入口を指で押さえて、現像・定着液を揺らさず、傾けず、平行に設置した状態でゆっくりプッシュして現像・定着液を注入する。

(3)その後、フィルム内の液体を小児用フィルムと標準用フィルムでは、約30秒間、咬合用フィルムでは約1分間、手でフィルムをよく揉んで撹拌する。

(4)次いで、ペアラーあるいは指でフィルムをパッケージから開封して、フィルムのみを取り出す。

(5)その後、水洗する。

(6)その後、硬膜処理液に5秒以上浸漬しておく。さらに2分間以上水洗してから乾燥する。

フィルムの保持

フィルムは、フィルムハンガーで挟んで自然乾燥する

フィルムの保存

フィルムの保存は、歯科用フィルム専用のデンタルフィルムホルダーに保存するとよい。

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(9)その他の検査とまとめ

その他の口腔内検査
(a)過剰歯や欠歯などの歯数の異常
(b)不正咬合
(c)外歯瘻や内歯瘻の形成の有無
(d)歯の破折などの形態異常
(f)乳歯遺残の有無

アメリカ歯科学会(AVDC)の歯周病ステージ分類と治療法

程度 治療法
ステージ1 歯肉のみの炎症で、いわば歯肉炎の段階であり、X線検査上の変化はない 歯垢・歯石除去、ポリッシング
ステージ2 アタッチメントロスが25%未満の初期の歯周炎
ステージ3 アタッチメントロスが25〜50%の中程度の歯周炎 歯垢・歯石除去、ルートプレーニング、歯肉縁下掻爬(キュレッタージ)、ポリッシング
ステージ4 アタッチメントロスが50%以上の重度の歯周炎 歯肉粘膜フラップを作成して歯周外科治療か抜歯が適応される

【3】歯科治療

歯科治療中の補助

(写真1)

歯科治療の多くは、超音波スケーラーの使用により口腔内細菌を周囲に飛沫させるため術者や助手を細菌感染から防御する目的で手袋、術衣、メガネなどを装着する(写真1)。


(写真2)

口腔内を何度も洗浄するために著しい体温の低下がみられるため全身麻酔下では絶えず処置台の上に保温マットや温風式加温装置(写真3)を敷いて実施する。


(写真3)

動物においては、同様な理由で眼に細菌が飛沫する可能性が高いので治療前に抗生物質の点眼を行うとよい(写真2)。

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歯垢・歯石除去

通常、歯垢・歯石除去(スケーリング)は、犬や猫において全身麻酔下で歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石に対して行う。これらを除去した後に歯垢細菌によって汚染されたセメント質表層を除去し、滑沢な根面にするルートプレーニングも行う。歯冠部では、粗造な歯面を滑沢にするポリッシング(歯面研磨)も行う。

(1)歯垢・歯石除去(スケーリング)

最初に口腔内を中性水などで洗浄する(写真4)。
超音波スケーラーは、チップが発熱するため必ず冷却水を注水しながら歯面を刺激しないように15度以内の角度で軽度に当てて操作する。同一歯にチップを長時間当てると温熱刺激が加わり、歯髄炎から歯髄壊死を生じることと、一箇所にチップを当てたまま振動させると歯質が大きく削られるので同一歯には15秒以内(理想的には5秒以内)でチップの側面を常に動かしながらフェザータッチ(40〜90g)で軽く歯面に当てて操作する(写真5)。

細かい歯垢・歯石に対しては、超音波スケーラ―のみで除去することは困難であるため歯の隣接面や歯面の凹部に存在する細かい歯垢・歯石を除去するために鎌型スケーラーを使用する(写真6)。
歯周ポケットを認めた症例には、歯肉縁下歯垢・歯石を除去する。キュレット(写真7)や先端が球形の歯肉縁下用チップを装着した超音波スケーラーを用いて歯肉縁下歯石に操作する。使用するキュレットは、片面にのみ刃のあるグレーシーキュレットが安全である。キュレットスケーラーの操作法は、キュレットスケーラーの刃面を歯面に平行にしてそのままポケット底に挿入して、そこから刃面と歯面の角度を80〜85度でプルストロークして歯垢・歯石を除去する(写真7)。

鎌型スケーラーやキュレットの切れ味が低下したら、シャープニングオイルを用いて研磨し使用する。(研磨方法はP985参照)

(2)ルートプレーニング

(写真8)

ルートプレーニングとは、歯周ポケット内の根面の汚染セメント質を除去してなめらかな根面にすることを目的として行う(写真8)。垂直、斜め、および平行方向にストロークを繰り返す。この操作では歯面とキュレットスケーラーの刃面のなす角度を65〜70度で操作する。

(3)キュレッタージ(歯肉縁下掻爬)

(写真9)

歯周ポケットを認めた症例で、歯肉壁に炎症がある場合は、キュレッタージ(歯肉縁下掻爬) (写真9)を行う。キュレッタージとは、炎症の強い歯周ポケット内の歯肉壁を掻爬することをいう。キュレットの刃面をポケット底部で歯肉の軟組織に向けて歯肉の外側を軽度に指で押さえて数回プルストロークする(写真9)。

(4)ポリッシング(歯面研磨)

スケーリング後の歯面は、超音波スケーラーや鎌型スケーラーを用いた操作で損傷を受け、粗造である。そこで、最初にポリッシングブラシに荒研磨用ペースト(研磨剤)をつけて歯肉に接触しないように小さな傷や微小な歯石を除去する(写真10)。その後、洗浄する。
次にソフトプロフィラバーカップに仕上げ用ペースト(研磨剤)をつけてさらに微小な傷をなくすために歯面にごく軽度に押し付けてラバーカップの縁がわずかに広がる程度にして歯肉縁下にも挿入して歯面研磨する。その際に温熱刺激による歯髄炎や歯髄壊死が生じないように低速回転(3,000rpm以下)で同一歯に15秒以内の時間で移動しながら行う(写真11)。

(5)洗浄および薬剤注入

以上の操作が終了したら、ポケット内や舌および口腔前庭部に研磨剤や歯石片などが残存していると歯肉が治癒しにくくなるので、歯肉縁上および歯肉縁下をクロルヘキシジン水溶液、生理食塩水、および中性水などで洗浄する(写真12)。
歯垢歯石除去後にポケット内に歯科用抗生物質のジェルを投与することにより歯周ポケットが浅くなり、歯肉炎指数が低下し、細菌感染が効果的に抑制される(写真13)。

抜歯

保存することが不可能と判断された重度の歯周病の場合は、抜歯が適応される。歯槽骨に支持されている歯根の表面積がきわめて少ないと保存は困難になり、ポケットが根尖を巻き込んでいる場合、口腔に機能上、重要な役割をする歯は保存に努めるが、機能上あまり意義がなく、清掃が困難な歯の場合、周囲の歯や対合歯に与える影響も抜歯する際に考慮すべきとされている。歯周組織の著しい喪失の場合、抜歯対象である。また、飼い主の個体に対するオーラルケアが可能か否かも考慮すべきである。
抜歯は疼痛を伴う処置であるために複合鎮痛と各孔からの局所麻酔剤を投与して行う。

抜歯の方法

抜歯を含めた口腔外科処置を行うにあたり歯の周囲組織における血管や神経の走行、各唾液腺開口部の位置、各歯牙と近隣部位(鼻腔、眼窩、上顎陥凹、眼窩下管、下顎管、各オトガイ孔など)との位置関係を把握しておく。抜歯処置は、エレベータを上手に使用できるか否かにかかっているといっても過言ではない。
通常の単根歯の抜歯の場合、メスにより上皮付着部の歯肉線維を切断し、エレベータを歯と歯槽骨の間に挿入して、歯根膜腔の拡大と歯根膜線維の断裂を行う。歯が完全に動揺するようになったら抜歯鉗子を用いてできるだけ歯根に近い部位を把持して歯の長軸に沿って歯冠側に向かって抜去する。抜歯窩に化膿液や壊死組織あるいは壊死骨などがある場合は鉗子で不良肉芽を除去し、ラウンド鋭匙で抜歯窩を掻爬してこれらを除去した後に洗浄する。歯槽骨縁が鋭利な場合はラウンドバーで平滑にする。歯肉は可能な限り吸収性縫合糸で縫合する。

頬側歯槽骨除去による多根歯の抜歯

通常、歯根が吸収されていない、歯槽骨の吸収がほとんどみられない、動揺のない単根歯、歯根が大きい、歯根が湾曲しているなどの場合、通常のクローズド・テクニックでは抜歯が困難である。このような場合は、抜歯すべき歯の歯肉を切開して歯肉粘膜フラップを形成し、頬側歯槽骨除去をしてから抜歯する。本症例では、歯の破折から根尖周囲病巣を生じた右上顎第4前臼歯の抜歯を示す。

(1)眼窩下管から局所麻酔薬(ブピバカイン)を投与している。

(2)次いで歯肉を抜歯予定の歯の歯肉付着部と歯間部に切開線をいれる。

(3)骨膜剥離子を用いて歯肉を歯槽骨から剥離し、挙上して歯肉粘膜フラップを形成する。

(4)その後、ラウンドバーを用いて頬側歯槽骨を抜歯すべき歯根に沿って根尖方向に進め、歯根長の約1/2〜2/3の歯槽骨を歯槽隆起に沿って切削する。

(5)クロスカットフィッシャーバーあるいはテーパーシリンダーバーを用いて根分岐部から歯冠に向かって単根歯に分割する。

(6)3根に分割したところ。

(7)次いで、切削した歯槽骨縁あるいは分割線にエレベータを歯軸の垂直に挿入して主に軸回転させながら歯根膜線維の断裂を行う。エレベータは、くさび作用、テコの作用、軸回転作用を組み合わせながら行う。エレベータは歯根の大きさに合わせて用いる。通常、歯の大きさに応じて異なる大きさのエレベータを5種類くらい用意しておくとよい。

(8)歯軸に沿ってエレベータを挿入して歯の脱臼を行う。歯が十分脱臼したら抜歯鉗子を可能な限り歯根側を把持して歯根軸と反対方向に軸回転しながら抜歯する。歯が脆弱の場合、歯の大きさの割に抜歯鉗子が小さいと一カ所の狭い部分に力が加わり、歯が破壊されてしまう恐れがある。したがって、抜歯鉗子も歯根の大きさに合った、少なくとも3種類くらい異なる大きさのものを用意しておくとよい。小さな歯には残根鉗子も使用しやすい。

(9)3根とも抜歯が終わったら、抜歯窩に不良肉芽がある場合は、鉗子などで除去したり、ラウンド鋭匙を用いて抜歯窩を掻爬して新鮮創にしてから洗浄する。
歯槽骨縁の鋭利な部位をラウンドバーで切削して平滑にする。

(10)そして、歯肉を元に戻す。歯肉粘膜フラップに緊張がかかって縫合できない場合は、フラップの剥離面にメスで減張切開を加えることでフラップが伸張して緊張を緩和できる。

(11)歯肉を戻して吸収性縫合糸で単結節縫合する。なお、針は、歯肉は重層扁平上皮のために比較的硬いために縫合針は角針を用いる。また、口腔内は細菌が多数存在するために可能なかぎり炎症を起こしにくい早期に吸収されるモノフィラメントの糸が薦められる。
抜歯後は、抗生物質、消炎剤および鎮痛剤を必要に応じて投与する。


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