皮膚科/耳科診療のフロー

Vet Derm Tokyo 代表皮膚科医
アジア獣医皮膚科専門医
獣医師 伊從 慶太

皮膚科/耳科診療の特色
皮膚科/耳科診療を円滑に実施するためには系統的なアプローチが必須である。診断フローの中でも問診、身体検査、鑑別疾患のリストアップは最も重要なプロセスである。皮膚科/耳科で汎用される各種検査は特殊な機器類を必要とせず単純に見えるが、適応・手法・解釈を正しく理解して実施しなければ診断の落とし穴となりうる。診断後は院内における洗浄と保湿、皮膚外用、耳道処置を検討する。またオーナーに対する疾患と治療計画の説明、投薬やスキンケア指導を実施する。このように皮膚科/耳科診療のプロセスは煩雑な側面を有し、多忙な日常診療の中で嫌厭されがちである。本稿においては“わかりやすく実践的な”診療フローを作成した。一般診療における皮膚科/耳科診療の一助となれば幸甚である。

初診時に問診票の記入をオーナーに依頼することで問診時間の短縮を図る。問診票はあまり複雑でなく、オーナーが5分ほどで記入できる内容にする。内容としてはシグナルメント、食事内容、生活環境、予防・スキンケア状況、皮膚症状の状況(いつ、なにが、どこから発生?)、かゆみの程度、皮膚以外の症状(一般状態)、治療歴などが挙げられる(問診票の例を写真1に示してある)。

再診症例では皮膚症状の改善や治療法に対する意見を確認するためのチェック票を用いる(写真2)。

問診票や再診チェック票はオーナーがリラックスした状態で記入できるように待合室の環境に配慮する。


写真3:問診の状況
リラックスした環境で行うこと意識する。

オーナーと症例を診察室に招き入れた際に症例をすぐに診察台に乗せることや、オーナーが立ったまま問診を聴取することは好ましくない。
症例には診察室内の環境に馴れる時間を与え、オーナーとは座った状態で問診を行う(写真3)。
問診票の記載内容を確認しながら問診を進めるが、オーナーが記載せずに空欄になっている項目も丁寧に聴取する。元気や食欲、飲水量、尿量、便状態などの一般状態も併せて確認する。

身体検査では全身の皮膚および被毛、耳部をくまなく観察する。犬や猫においては皮膚病変が被毛に覆われていることも少なくないため、毛をかき分けて皮膚を観察する(写真4)。粘膜疹も必ず確認する(写真5)。皮膚病変が観察しにくい場合はライト付きのルーペなどを用いる。

皮膚病変には原発疹と続発疹が存在する(表1)。原発疹は皮膚疾患の初期に認められる発疹であり、診断上重要なものが多い。続発疹は原発疹あるいは他の続発疹に修飾が加わって発生する発疹である。

原発疹 続発疹
色調の変化
 紅斑:真皮毛細血管の拡張
 紫斑:真皮内出血
 色素斑/白斑:メラニン色素沈着/逸脱
隆起する病変
 丘疹:直径1cm未満の隆起
 結筋:直径1-3cmの隆起
 腫瘤:直径3cm以上の隆起
 局面:やや扁平な隆起/丘疹の集合
 水疱/膿疱:表皮内や表皮下に水様物/膿の貯留
 嚢腫:皮下の閉鎖性隆起性病変
 膨疹:限局性浮腫性病変(蕁麻疹で発生)
脱毛:被毛が毛包内から逸脱
色調の変化
 色素斑(色素沈着)
びらん:表皮までの皮膚欠損
潰瘍:真皮側に達する皮膚欠損
鱗屑:過剰な角質の堆積
面皰:堆積した角質による毛孔の拡張
痂皮:血液、膿、角質などの集合物
苔癬化:皮膚の肥厚、硬結
瘢痕:皮膚欠損部が結合組織で置換
脱毛(裂毛):被毛が折れた状態

表1:原発疹と続発疹

また、発疹の分布(部位、左右対称性、周囲との境界)と形態(発疹の形状や色調など)を確認し、カルテに記載する(写真6)。
耳部は耳介内外側の皮膚状態、耳孔、表面の耳垢、臭気、耳道の硬さを確認する。その他、視診、触診、聴診、打診、体温測定などを通して全身状態の確認を行う。

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問診、身体検査を通して得られた情報を整理し、鑑別疾患をリストアップする(写真7)。鑑別疾患には優先順位をつけ、実施すべき検査を検討する。

写真7:鑑別疾患のリストアップ
問診や身体検査で得られた情報を整理し、優先順位をつけて記載する。

一般診療において汎用される皮膚科学的検査としては微生物の検出、浸潤細胞の評価、毛構造の評価、皮膚生検、アレルギー検査、耳道の評価が挙げられる。それぞれの検査の適応、手法、解釈を理解することが重要である。

一般診療において汎用される皮膚科学的検査としては微生物の検出、浸潤細胞の評価、毛構造の評価、皮膚生検、アレルギー検査、耳道の評価が挙げられる。それぞれの検査の適応、手法、解釈を理解することが重要である。

適応

ノミ、シラミ、ハジラミ、ツメダニなど比較的大型の外部寄生虫の検出に用いる。

手法

ノミ取り櫛を用いて全身をくまなくコームする(写真8)。櫛に集まった被毛や鱗屑、その他の残渣は白い紙やトレーの上におき、まずは肉眼で外部寄生虫の存在を確認する(写真9)。確認が難しい場合はスコッチテープなどで集積物の一部を取り、スライドグラスに貼付けて直接鏡検する。ノミの寄生が疑われる場合は虫体のみではなく糞も探索する。ノミ糞は黒色・コンマ状〜砂状の構造として確認され(写真9)、水に濡らすと滲む性質がある(写真10)。

解釈

ノミアレルギー性皮膚炎は少数のノミ寄生でも発症する可能性がある。
したがって、ノミ取り櫛検査でノミが検出されなくても本疾患を否定することはできない。

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適応

犬や猫の皮膚糸状菌症の主要な起因菌であるMicrosporum canisの感染被毛を検出するための簡易スクリーニング検査である。

手法

ウッド灯は検査を行う5〜10分前に電源を入れて光源を安定させる。病変部/非病変部に関わらず全身にくまなくウッド灯を当て、黄緑色に蛍光発光する被毛を探索する(写真11)。病変部は1ヶ所3〜5分ほどかけてゆっくりと観察する。陽性被毛は鉗子で採取して直接鏡検および真菌培養同定検査の検体として用いる(写真12)

解釈

M. canis感染被毛の約50%が陽性反応を示すが、 M. gypseumやTrichophyton 属の感染の検出には有用ではない。したがって、ウッド灯検査が陰性であっても皮膚糸状菌症を否定することはできない。鱗屑や痂皮、外用剤塗布部は擬陽性反応を示すことが多いため、ウッド灯が陽性の被毛は必ず採取し、鏡検下で皮膚糸状菌を確認する。

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適応

ヒゼンダニ、ツメダニ、ニキビダニなどの外部寄生虫、および皮膚糸状菌の検出に用いる。

手法

皮膚の掻爬には鋭匙や外科用メス刃を用いる。ヒゼンダニ、ツメダニは皮膚の浅層に寄生することから、皮膚から出血を伴わない程度に浅く掻爬する(写真13、14)。皮膚糸状菌も浅い掻爬で検出可能である。検出率を向上するためには広く、複数箇所から採取することが望ましい。ニキビダニは毛包内寄生が一般的なため、皮膚から出血を伴う深い掻爬が必要となる(写真15)。毛孔に一致した丘疹、脱毛、面皰などの発疹を指で圧迫しながら掻爬するとニキビダニが検出されやすい。深い掻爬は出血や疼痛を伴うことからオーナーの印象が悪いこともある。その場合には後述の毛検査を用いる。
掻爬した検体はスライドグラス上で20%KOH溶液(あるいは20%KOH-DMSO 3:1混合液)、ミネラルオイル(イマージョンオイル)に浸潤させる(写真16)。検体はカバーガラスで圧平し、顕微鏡のコンデンサーを下げて鏡検する(写真17、18)。


解釈

疥癬におけるヒゼンダニの検出率は決して高くないため、ヒゼンダニが検出されなくても疥癬を否定することはできない。
一方、ニキビダニの検出率は高く、複数回/複数箇所の検査が検出されない場合はニキビダニ症以外の疾患を考慮すべきである。

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適応

毛根、毛軸、毛尖の形態評価、皮膚糸状菌およびニキビダニの検出に用いる。

手法

抜毛鉗子を用いて少量の被毛を把持し、毛の走行に沿ってゆっくりと引き抜く(写真19)。脱毛の評価には脱毛部、脱毛部周囲、正常部、色調の異なる被毛部から検体を採取する。採取した検体はスライドグラス上でミネラルオイル(イマージョンオイル)に浸漬し、カバーグラスで覆って鏡検する。皮膚糸状菌に感染した被毛は胞子や菌糸が被毛を覆うため、正常な被毛よりも太く、粗造に見える(写真20)。毛根を観察することで毛周期を評価する。成長期毛は太くゴルフクラブのような形態、休止期毛は先が細く箒のような形態を示す(写真21)。毛幹では色素分布状態を評価する。淡色被毛脱毛症や黒色被毛毛包形成異常症では巨大なメラニン顆粒が認められる(写真22)。毛尖は通常先細りになっているが、物理的な刺激(掻破行動など)によって裂毛を認めることがある(写真23)。


解釈

皮膚糸状菌症は感染被毛を採取できなければ見落とす可能性があるため、毛検査が陰性でも皮膚糸状菌症を否定することはできない。
ウッド灯検査、掻爬物直接鏡検、真菌培養同定検査と併せて実施することが推奨される。
多くの犬種において毛検査では成長期毛と休止期毛が混在して認められる。短毛種では毛周期が短いため休止期毛が優性であるが、プードルなど被毛が伸び続ける(=成長期が長い)長毛種では毛検査において成長期毛が優性となる。したがって、このような長毛種で休止期毛が優性に認められる場合は毛周期異常を考慮する。裂毛が認められた場合はかゆみや摩擦、トリミング行為の可能性を考慮する。

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適応

皮膚表面あるいは深部の微生物増殖(主に細菌と真菌)、角化細胞の変化、炎症/腫瘍細胞浸潤などを確認するために用いる。

手法

(1)テープストリップ
スコッチテープやセロハンテープを用いて、乾燥した皮膚病変(鱗屑など)や直接スライドグラスを当てることが難しい部位に適応する。(写真24)

(2)ガラス直接押捺
スライドガラスを直接病変部に押捺して採取する。膿疱や水疱、びらん〜潰瘍、痂皮下など湿潤した病変へ適応する。(写真25)

(3)スワブ採取
綿棒を用いて検体を採取し、スライドガラス上に塗布する。
凹凸の多い部位や耳道に適応する。(写真26)

(4)針吸引
結節〜腫瘤など隆起性の病変へ適応する。針(23G)とシリンジ(5mL)を用いて病変部から検体を吸引し、スライドグラス状で塗抹標本を作製する。(写真27)

(5)染色
(1)〜(4)で採取した検体はDiff Quik染色、ニューメチレンブルー染色で簡易染色を施すことが一般的だが、対象とする細胞や微生物によってはライトギムザ染色、グラム染色などを併せて実施する。
テープストリップ検体はテープごと染色可能である(写真28)。

解釈

皮膚や耳道において細菌の増殖を認めた際には、炎症細胞の浸潤を評価する。炎症細胞の浸潤を伴わずに菌体のみが認められる場合は感染が成立してない。感染が成立している場合は菌体の増殖に伴って好中球を主体とする炎症細胞浸潤が認められ、好中球による菌体の貪食が確認される(写真29)。感染を示唆する所見が確認された場合には細菌培養同定検査の実施を検討する(後述)。

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適応

皮膚真菌症における抗真菌薬の選択、感染源対策、無症候キャリアーの検出や治療終了の判定をする上で重要な検査である。

手法

皮膚糸状菌症では滅菌した抜毛鉗子や鋭匙を用いて、鏡検下で皮膚糸状菌の感染が確認された部位やウッド灯検査にて黄緑色蛍光を発した部位より被毛や鱗屑を採取する(写真12)。明らかな皮膚症状がない個体や同居動物にはブラシ培養を用いる。ブラシ培養は滅菌した歯ブラシで体全体を拭き取り(写真33)、培地上にブラシの先端部を切り落として接種する。主にサブローデキストロース寒天培地、Dermatophyte test medium(DTM)培地が汎用されるが、推測される原因菌によって培地を使い分ける必要がある(クリプトコッカス、カンジダ、アスペルギルスなどはDTM培地において発育しない場合がある)。
院内で真菌培養同定を行う場合は、約27℃下で培養を行い、培地色の変化やコロニー形成を毎日観察する。外部検査機関に培養検査を依頼する場合には、郵送までの間は4℃下で保存する。

外注先と検査の解釈

複数の動物用検査機関において外注可能であるが、人に伝播しうる真菌種の感染が疑われた場合、事前に検査機関に相談する必要がある。真菌培養同定検査は採取した部位に存在した真菌を確認する検査であり、感染の証明は皮膚掻爬物直接鏡検、毛鏡検、細胞診、病理組織学的検査により行う必要がある。

皮膚糸状菌の培養

皮膚糸状菌は発育初期にタンパク質を分解利用するため、コロニー形成時にDTM培地がアルカリ性に傾き、培地内のフェノールレッドにより培地色が黄色から赤色に変化する(写真34)。他の多くの真菌は発育初期に炭水化物を利用するため培地色は初期に赤変しない。 Microsporum canisは白色、綿毛状のコロニーを形成する(写真34)。 M. gypseumは、表面が扁平〜顆粒状、黄褐色〜淡黄色の粉末状のコロニーを形成する。 Trichophyton mentagrophytesはクリーム色で表面が扁平な粉末状のコロニーを形成することが多いが、顆粒状、綿毛状など様々な形態のコロニーも形成する。コロニーが形成された場合は分生子の観察を行う。スライドガラス上にラクトフェノールコットンブルー溶液を1滴おき、コロニーからピンセットやテープなどで採取した検体を接種して直接鏡検する。 M. canisの大分生子は紡錘形であり、壁が厚く、隔壁により分けられた細胞数が多い(写真35)。 M. gypseumは棘を有する樽型の大分生子を形成し、壁は薄く、隔壁により分けられた細胞数が少ない(写真35)。 T. mentagrophytesは多数の大分生子を形成しない場合がある。形成された大分生子は葉巻状であり、薄く滑らかな(棘のない)壁を有する。

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適応

他の皮膚科学的検査で細菌の感染が証明された場合、感染源の同定や適切な治療戦略を立てる上で極めて重要な検査である。

手法

細菌
外注検査を用いる場合はシードスワブを用いる(犬の表在性膿皮症では好気性培養のみで対応可)。犬の表在性膿皮症において検体を採取する発疹としては膿疱や丘疹が推奨されるが、新鮮な膿疱から採取することが特に望ましい(図30)。
続発疹の中では鱗屑が環状に配列する発疹(表皮小環)より採取する(図31)。びらんや痂皮などでは原因菌以外のコンタミネーションが起こっている可能性が高い。膿疱から検体を採取する際は膿疱表面および周囲をアルコール綿などで消毒し、25Gの注射針などを用いて膿疱表面を切開し、膿を圧出させて採取する。丘疹の場合は表面より採取するのではなく、丘疹を指で絞って滲出液を採取する(図32)。
表皮小環では消毒したピンセットを用いて鱗屑をはがし、その下部から採取する。結節〜腫瘤などの深在性感染を疑う場合は、針吸引や生検サンプルより培養を実施する。耳道の浅部感染ではスワブで膿や滲出物を採取する。耳道の深部感染では浅部を生理食塩水などで洗浄した後、カテーテルなどで深部の膿汁や滲出物を採取する。深在性膿皮症や耳道の深部感染の場合は嫌気培養も考慮する。採取したサンプルは郵送時まで冷蔵保存(4℃下)する。

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外注先と検査の解釈

外注先としては、小動物由来菌を正確に同定可能な検査機関を選択すべきである。犬の表在性膿皮症の主要な原因菌はコアグラーゼ陽性ブドウ球菌のStaphylococcus pseudintermediusである。本菌は一般的な生化学性状のみでの同定は困難であり、同定にはPCR法など分子生物学的な手法が必要である。したがって、分子生物学的な手法を採用していない検査機関、一部の人用の検査機関ではS. pseudintermedius が非病原性のブドウ球菌として判定されることも少なくない。一方、動物用検査機関では正確な菌種同定を行わないクイック薬剤感受性検査も存在する。菌種により薬剤感受性試験の基準は異なるため、正確に菌種を同定しなければ誤った基準で感受性試験が実施されるリスクがある。
薬剤感受性試験の結果は「耐性」、「感受性」、「中間」の表記で示されることが一般的であり、犬や猫における感受性検査の基準としては主に人の病原菌の基準が採用されている。
近年、βラクタム系抗菌剤を含む数種の抗菌剤における感受性検査の判定基準が、犬と人のブドウ球菌種で異なる可能性が報告されている。人と小動物間に存在する種差が結果に影響する可能性に留意し、「耐性」、「感受性」、「中間」のみで判断せず、試験の結果(主にディスク感受性試験の阻止円直径)を参照することが望ましい。

適応

5-A〜5-Gまでの一般的な皮膚科学的検査において診断あるいは除外が困難な疾患に適応される。
皮膚深部感染症、脱毛症、免疫介在性・自己免疫性疾患、腫瘍性疾患で用いられる機会が多い。

手法

採取法としてはパンチ生検が汎用されるが、病変の部位・深度によっては楔形生検や全層生検を用いる。パンチ生検では直径6〜8mmのトレパンを一般的に用いるが、粘膜境界部や末端部、微小な病変では直径の短いトレパンを用いる。採取には新鮮な原発疹(表1)を中心に、肉眼上で形態の異なる複数の発疹を選択する(通常は3〜4ヶ所ほど採取)。続発疹の中でびらん〜潰瘍など表皮が欠損している病変は診断的価値が乏しい。
脱毛病変の場合は完全脱毛部、脱毛境界部、正常発毛部、被毛色の異なる部位を採取する。疑われる疾患によっては生検前に休薬を実施しなければならない(免疫介在性疾患が疑われた場合の副腎皮質ホルモン製剤や免疫抑制剤の休薬など)。採取する病変部の処置として剪毛を第一に行うが、バリカンなどで病変を傷つけないように剪刀などで慎重に剪毛する。つぎに採取する病変を写真撮影し、四方をマッジックペンなどでマーキングする(写真36)。痂皮や鱗屑など病変部の付着物は除去しない程度に病変を消毒し、マーキングした四方から局所麻酔薬(リドカインやマーカイン)を皮下へ注入する。トレパンを一方向にゆっくりと回転させて切開し(写真37)、皮下をメッツェンバウムなどで切除する(写真37)。この際にピンセットで皮膚表面を掴んではならない(特に有鉤のピンセットの使用は避ける)。採取した検体はそのまま固定液(10%中性緩衝ホルマリン液など)に浸漬すると湾曲するため、ろ紙や厚紙の上に1分ほど静置する。その際に被毛の走行を紙上に記載する(写真38)。検体は紙に付着した状態で固定液に浸漬して、外注検査先へと郵送する。

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外注先と解釈

皮膚病理組織学的検査の外注先としては、皮膚科臨床に精通した皮膚病理診断医が所属する検査会社を選択することが推奨される。アイデックスラボラトリーズには筆者を含む複数の皮膚病理診断医が所属しているため、外注先としてご活用頂きたい。
診断を依頼する際には必ず生検時に撮影した臨床写真、症例のシグナルメントと病歴、院内で実施した各種検査結果を添付する。皮膚科臨床に精通した診断医はこれらの情報からも診断・治療アドバイスが可能となる。一方、皮膚病理検査を行えば必ず確定診断に至る訳ではなく、採取する発疹の選択や時期を誤ると診断に決定的な所見を得られない可能性を考慮する。皮膚生検の採取に不安がある場合には事前に診断医に相談するとよいだろう。

適応

アレルギー検査にはアレルゲン特異的IgE検査、アレルゲン特異的皮内試験、リンパ球反応検査などが挙げられる。
主に犬アトピー性皮膚炎症例における原因アレルゲンの回避やアレルゲン特異的減感作療法の実施、また犬の食物アレルギーにおける除去食試験や食事管理の内容を検討する際に適応を考慮する。

手法

本邦における外注検査としてはアレルゲン特異的IgE検査、リンパ球反応検査が利用可能であり、いずれの検査も血液採取のみの簡便な検査である(採取した血液の処理・郵送法は各検査会社の案内を参照)。
犬アトピー性皮膚炎ではアレルゲン特異的IgE検査を、食物アレルギーではIgE検査とリンパ球刺激試験の両者の実施を検討する。
アレルゲン特異的皮内試験は院内で実施可能な検査ではあるが、国内では入手可能な抗原液が限られていること、剃毛・鎮静処置など手技が煩雑であることから、積極的に実施されることは少ない(写真39)。副腎皮質ホルモン製剤を投与していた場合は、休薬後の実施を検討する。

解釈

アレルギー検査はアトピー性皮膚炎や食物アレルギーの診断・管理の補助として有用であるが、本検査のみで診断を行うことはできない。
アレルギー検査が陽性であってもアトピー性皮膚炎や食物アレルギーと診断とはならない。また、アレルギー検査が陰性であってもアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを否定することはできない。アレルギー検査の結果だけに捕われることなく、臨床症状は合致しているのか、その他の疾患は除外されているのか、発症季節や環境、食事内容と検査で陽性を示した原因アレルゲンに関連はあるのかといったことを考慮しなければならない。

適応

耳科疾患は皮膚疾患に次いで来院数の多い疾患とされる。小動物臨床では耳トラブルを主訴に来院した症例において皮膚トラブルが見つかる、あるいはその反対の現象と遭遇することが多い。したがって、皮膚症状が認められる症例においても耳鏡検査を日常的に実施することが望ましい。耳鏡検査は耳道の評価(特に外耳)に有用な検査法である。

手法

耳鏡およびチップを準備する。チップは1症例につき2つ用意する。耳鏡を耳道に挿入する前に、症状の対称性と耳介内側部皮膚〜耳孔部の皮膚症状を確認する。犬の耳道は垂直耳道と水平耳道から構成されL字の構造をとっている(写真40)。このような外耳道構造のため、耳孔から垂直に耳鏡を挿入すると症例に疼痛が生じるとともに、鼓膜までの視野が明瞭にならない。したがって耳介を観察者側へ引き寄せながら(垂直耳道を水平にするようなイメージ)ゆっくりと耳鏡を挿入する(写真41)。垂直耳道および水平耳道の発赤、浮腫、びらん、隆起性病変、耳垢量を確認し、また鼓膜の色調や損傷の観察を併せて実施する(写真42)。耳垢や滲出物などが過剰な場合は耳鏡を挿入する前に耳道の洗浄を行う。鼓膜の損傷が疑われる症例では耳道洗浄液よりも生理食塩水やリンゲル液を用いて洗浄する方が良い。除去した耳垢はアルカリ溶液に浸漬して直接鏡検(皮膚掻爬物直接鏡検と同様の観察)し、また膿や滲出物と併せて細胞診を実施する。

解釈

犬の外耳炎の原因として発生率が高いのはアトピー性皮膚炎や食物アレルギーであり、これらの疾患では左右対称性の症状を示すことが多い。一方、耳道内異物やポリープなどでは片側性であることが一般的である。犬のアトピー性皮膚炎では食物アレルギーよりも耳介内側部皮膚〜耳孔部の皮膚症状(紅斑、びらん、痂皮、苔癬化など)が強いことが多い。犬のアトピー性皮膚炎では垂直耳道の炎症所見が強調される傾向があるが、食物アレルギーでは垂直〜水平耳道の全体にわたって炎症所見が認められる傾向がある。耳鏡検査では垂直および水平耳道〜鼓膜周辺までの観察が限界である。中耳炎を疑う症状や鼓膜の損傷を認めた症例では耳道内視鏡やCT検査などを検討する。

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問診、身体検査、各種検査によって統合的に確定診断を行う。診断を下した後も鑑別として考慮した疾患の可能性も意識しながら、治療計画・モニタリングをすべきである。

皮膚科や耳科疾患の診断が下った後は院内において処置を行う。病院で行う処置の必要性をオーナーに実感してもらうことで、定期的な通院を促すことが可能となる。

皮膚疾患の治療において洗浄と保湿は非常に有用なツールとなる。洗浄と保湿は疾患の治療のみならず、健康な皮膚の維持、疾患の予防のために極めて重要である。基本的に洗浄を行った後は必ず保湿をして皮膚を整える必要がある。

製剤の選択

洗浄剤や保湿剤を選択する際には診断した皮膚疾患や肌質に合った成分を考慮する(表2:洗浄剤と保湿剤の表)。薬用シャンプーは有効(薬効)成分のみが注目されがちであるが、界面活性剤などの性質に関しても理解する必要がある。製剤の選択にはオーナーの趣向やライフスタイルを考慮する。複数の製剤が選択肢として上がった場合は、サンプルの配布や院内処置を通してオーナーに選択を委ねる。

期待できる効果 製剤区分 皮膚の状態(適応症例) 商品名 メーカー名 おすすめポイント 禁忌症例
保湿 シャンプー 乾燥肌、アトピー性皮膚炎 ヒノケア  かさかさ肌用 バイエル薬品(株) ヒアルロン酸より高い保湿力を有するリピジュア配合
乾燥肌、アトピー性皮膚炎 AFLOAT DOG VETシリーズ低刺激 シャンプー(3) (株)ペティエンスメディカル アミノ酸系界面活性剤で優しく洗浄し、セラミドで保湿
乾燥肌、アトピー性皮膚炎 花王ヘルスラボシャンプー 花王 高濃度バリアセラミド配合
コンディショニング剤 乾燥肌、アトピー性皮膚炎 AFLOAT DOG VETシリーズ
低刺激 モイスチャライズ
(株)ペティエンスメディカル 保湿力の高い、掛け流しタイプのコンディショナー
乾燥肌、脂性肌 ヒュミラック (株)ビルバックジャパン 乾燥肌のみならず脂性肌にも適応可能な保湿剤
外用剤(スポット剤) 乾燥肌、アトピー性皮膚炎 ダーム-ワン (株)ビルバックジャパン 角質細胞間脂質を再現した保湿剤
保湿抗炎症 シャンプー 乾燥肌、アトピー性皮膚炎 EFAスキンコントロールシャンプー (株)キリカン洋行 被毛の光沢、角質成分の補充
乾燥肌、アトピー性皮膚炎 アデルミル (株)ビルバックジャパン 犬アトピー性皮膚炎の治療ガイドラインで推奨されたシャンプー
乾燥肌、アトピー性皮膚炎 エピスース (株)ビルバックジャパン 表面アレルゲンの除去と皮膚炎の軽減
コンディショニング剤 乾燥肌、脂性肌 EFAスキンコントロールコンディショナー (株)キリカン洋行 被毛の光沢、角質成分の補充
外用剤(スポット剤) 乾燥肌、アトピー性皮膚炎 デルモセント エッセンシャル6スポットオン (株)共立商会 犬アトピー性皮膚炎の症状の緩和が期待
保湿脂漏 シャンプー 脂性肌 ヒノケア べたつき肌用 バイエル薬品(株) やさしく脂落とし
脂漏 シャンプー 脂性肌 ゾイック スーパークレンジング (株)ハートランド しっかり脂落とし 乾燥肌
脂性肌、フケ症 ケラトラックス(2) (株)ビルバックジャパン サリチル酸1%でマイルドな角質溶解、保湿剤を配合
脂性肌 AFLOAT DOG レギュラーシリーズ下洗いシャンプー (株)ペティエンスメディカル しっかり脂落とし 乾燥肌
溶剤型洗浄剤 脂性肌、アトピー性皮膚炎 AFLOAT DOG VETシリーズ低刺激 クレンジングオイル (株)ペティエンスメディカル シャンプー前に、油で皮脂を浮かして落とす
脂漏抗菌 シャンプー 脂性肌、フケ症、細菌感染、ニキビダニ症 ビルバゾイル(1) (株)ビルバックジャパン 抗菌と毛穴のクレンジング、強力な脱脂 乾燥肌、猫
脂性肌、フケ症、真菌症 コラージュフルフルネクストシャンプー うるおいなめらか 持田ヘルスケア(株) マラセチア皮膚炎の症状の緩和に
脂性肌、フケ症、真菌症 コラージュフルフルネクストシャンプー すっきりさらさら 持田ヘルスケア(株) マラセチア皮膚炎の症状の緩和に
抗菌 シャンプー 細菌感染 ノルバサンシャンプー0.5 (株)キリカン洋行 細菌感染管理のスタナンダードなシャンプー
細菌感染、真菌症 マラセブ (株)キリカン洋行 細菌感染、マラセチア皮膚炎管理のスタンダードなシャンプー
多汗抗菌 シャンプー 多汗、細菌感染 エチダン (株)ビルバックジャパン 多汗に伴う皮膚pHの上昇を緩和

表2:洗浄剤と保湿剤の表

洗浄剤の考え方

洗浄剤には固形石鹸やシャンプーのような界面活性剤型と、クレンジングオイルなどの溶剤型に区分される。犬や猫の洗浄剤では界面活性剤型が主流であったが、溶剤型製剤(1)も増えている。また、界面活性剤型・下洗い用の洗浄剤(2)も利用可能である。
皮膚科診療で汎用される薬用シャンプーはあくまでも“薬用”であり、皮膚の汚れを除去することに特化した洗浄剤ではない。したがって、溶剤型洗浄剤や下洗い製剤などを薬用シャンプー前に使用することで、汚れを効果的に落とし、薬用シャンプーの効能を引き出すことが期待できる。
シャンプーに含まれる界面活性剤の種類にも着目する。界面活性剤の分類としては石鹸系、高級アルコール系、アミノ酸系が挙げられる。石鹸系や高級アルコール系は高い洗浄力と起泡力を有するが皮膚の刺激性やキューティクルの開きが問題となる。一方、アミノ酸系界面活性剤は起泡性が劣るものの刺激性が少ない利点がある(乾燥肌やアトピー性皮膚炎などで使用しやすい)。小動物用のシャンプーに含まれる界面活性剤は高級アルコール系が一般的であるが、アミノ酸系界面活性剤配合製剤(3)も利用可能となっている。
薬用シャンプーであっても1種類のみで皮膚トラブルに対応することは難しく、複数の製剤を併用することが望ましい。例えば犬の皮膚でブドウ球菌が増殖していた場合、ブドウ球菌数を減らすために抗菌剤を配合した洗浄剤が有効な治療選択として汎用される。しかし、ブドウ球菌増殖の要因としてはアトピー性皮膚炎によるバリア機能低下や多汗症などが検出される。したがって、ブドウ球菌感染を抗菌性洗浄剤で管理しながら、バリア機能低下や多汗をコントロールする洗浄剤を併用することで理想的なコントロールが可能となる。また、病変部位と非病変部、季節や年齢によっても洗浄剤を調整する必要がある。つまり、1種類の洗浄剤のみを漫然と継続してはならない。

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保湿剤の考え方

保湿は洗浄で失われた成分の補充や皮膚表面の保護を目的とする。保湿剤には油性基剤(スクワラン、ワセリン、動植物油など)、多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコールなど)、天然保湿因子、生体高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)、細胞間脂質(セラミド関連物質、コレステロール、脂肪酸など)、尿素、乳酸、種々のアミノ酸があげられる。洗浄剤の中には保湿剤を配合した製剤も存在するが、そのような製剤で洗浄した後も保湿剤を使用することが推奨される。また、洗浄後以外にも日常的にも保湿剤を使用することで健康な皮膚を維持することができる。

洗浄法

1. ソリューションの選択
温水(水道水)が一般的に用いられるが、症例の体温よりは低温(35℃以下)に設定することが好ましい。高温では皮膚のpHがアルカリ性に傾く可能性や、洗浄後の乾燥・かゆみを生じる可能性がある。温水以外には微細な泡で洗浄力が期待されるマイクロバブル、血流改善効果の期待される炭酸泉、抗菌効果の期待されるオゾン水なども有効なソリューションである。入浴は皮膚全体の処置が容易であり、血液循環の改善も期待できる(写真43)。単純温浴では生体の保湿成分が漏出する可能性があるため、保湿剤を加えることが望ましいまた、入浴剤として炭酸泉、硫黄泉などが利用可能である。

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2. すすぎ
溶剤型洗浄剤はすすぎ前に皮膚になじませる(写真44)。すすぎの工程で落ちる汚れはできるだけ除去する。また、皮膚を十分に塗らし角質を軟化させる(写真45)。

3.洗浄剤の準備/塗布
製剤にもよるが基本的にシャンプーなどの洗浄剤は事前に泡立てる(写真46)。スポンジや泡立て器を利用することできめの細かい粟を作成することが可能である。ポンプ式容器で泡が産生される便利な製剤も利用可能である(写真47)。症例の皮膚に洗浄剤を直接塗布して泡立てることは推奨されない。泡立てた洗浄剤を被毛の走行に沿って(頭から尾など)優しく塗布する。塗布時には掌を使って皮膚をマッサージするとよい(写真48)。被毛の走行に逆らってゴシゴシ洗ってしまうと、シャンプー後の皮膚トラブルを起こす可能性がある。推奨適応時間が存在する製剤では塗布後に静置するが、症例の状態を見極めながら実施する。

4. すすぎとコンディショニング
洗浄剤が残らないように丁寧にすすぎを行う。洗浄に要した時間よりもすすぎの時間が長くなるように意識する。複数の製剤を実施する場合は、すすぎを行った後に再度洗浄剤を準備・塗布する。洗浄が終了した際は保湿成分を含む製剤でコンディショニングを行う(写真49)。

5. ドライイング
ドライイングは吸水性の高いタオルを用いて行う(写真50)。皮膚トラブルのある症例ではドライヤーやスリッカーの過度な使用は避ける。ドライヤーを使用する際には皮膚表面が過度に熱くならないように、温度と適応距離に注意する。ドライヤーで皮膚表面が熱くなった際には、冷風でクールダウンする。ドライイング後に乾燥が認められる場合は部分的に保湿スプレーなどを使用する。

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院内で洗浄を行った後は外用剤を塗布する。洗浄後は皮膚表面の汚れが少なく、角層が軟化しているため外用剤が浸透しやすい。洗浄後に油性の基剤を用いるとべたつきが生じ、オーナーの印象が悪いこともあるため、ソリューションやジェル、スプレー製剤を用いることが推奨される(写真51)。洗浄処置を行わない場合は患部をホットタオルなどで拭いてから外用剤を塗布しても良い。外用剤の塗布はオーナーの前で実施することで、自宅での適応方法を指導することができる。

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耳処置としては耳道内洗浄が日常的に行われる。第一に耳鏡検査(5-J)において評価した耳道の状態に応じて耳道洗浄剤を選択する(表3:耳道洗浄剤の表)。耳鏡による耳道の評価が困難で、鼓膜や中耳の状態が不明の場合は洗浄剤よりも生理食塩水やリンゲル液を洗浄に用いた方が無難である。生理食塩水やリンゲル液を耳道内に満たした際に、水位が下がる場合、鼻から排出される場合は鼓膜損傷が強く疑われる。

期待できる効果 イヤークリーナ性状 耳の状態(適応症例) 商品名 メーカー名 おすすめポイント
洗浄抗菌抗炎症 ソリューション 耳垢過多、耳道感染、耳道炎 エピオティック (株)ビルバックジャパン ・中性の洗浄剤、サリチル酸で耳垢溶解、EDTAのキレート作用で微生物の細胞壁を不活化
・グリコテクノロジーで抗炎症作用が期待
ザイマックス イヤークリーナー (有)PKBジャパン 酵素の力で抗炎症、抗菌、耳垢溶解
ソリューション(油性) ザイマックス・イヤープロテクター (有)PKBジャパン 酵素の力で抗炎症、抗菌、耳垢溶解

表3:耳道洗浄剤の表

一般的な耳道洗浄の方法としては、洗浄剤を耳道内に満たした後やさしくマッサージを行う(写真52)。ソリューション型の洗浄剤は耳鏡で耳道内を観察しながら、汚れが除去されるまで洗浄・マッサージを繰り返し実施する。綿棒は汚れを押し込む可能性があるため深部への使用は避ける。マッサージによる洗浄で除去が難しい汚れはカテーテルを用いて耳道洗浄を行うが、耳道や鼓膜を傷つける可能性があるため、耳道内視鏡下での使用が推奨される。油性基剤(イヤープロテクターなど)の洗浄剤は単回の使用で耳汚れの除去が期待できるため、オーナーが自宅で行う洗浄法として簡便である。過度な脂性耳垢や上皮性耳垢が堆積する場合はクレンジング剤も使用可能である。
耳道の洗浄後は必要があれば点耳薬を使用する。動物用の点耳薬は副腎皮質ホルモン製剤、抗菌剤、抗真菌剤の合剤が一般的である。このような合剤点耳薬は便利ではあるものの、あくまで対症療法に過ぎず、無計画/長期的に使用すると副腎抑制や抗菌薬耐性菌出現のリスクを伴う。慢性再発性外耳炎に遭遇した場合は、アレルギー素因などの発症要因に対する根本的なアプローチを考慮すべきである。

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診断した疾患について、オーナーが十分に理解できる説明を心掛ける。説明の際にはカラーアトラスなど視覚的にわかりやすい資料を用いると良い。治療計画を説明するにあたって重要なことは、「診断した皮膚疾患が治療によって完治するか?」という点である。小動物における皮膚疾患の中でも発生率の高いアレルギー性疾患や常在菌の増殖などは、症例が生まれつきもった体質に起因することが一般的であり、治療で改善はするものの、休止すると再発する場合が多い。この事実を理解しないまま漫然と治療が繰り返されると飼い主の不信感を抱きかねない。完治が期待できない疾患であれば、長期的な治療計画(季節や年齢に合った治療計画)を立案し、オーナーの理解を得なければならない。
皮膚は直接触れることのできる数少ない臓器であり、外用療法は皮膚科の醍醐味である。小動物において外用療法はコンプライアンスなどの問題から嫌厭されがちであるが、適切に実施された外用療法は効果や副作用の面においてメリットが多い。皮膚疾患を治療する際は全身療法のみを実施せず、必ず外用療法を併用するように心掛けてもらいたい。

薬袋は飼い主が理解しやすいように記載する。製品名、薬品の分類、用法と用量、投与期間、適応のタイミングや注意点、コツを記載する(写真53)。特に外用療法は薬袋の記載が不足しがちであり、オーナーが適切に塗布できていない症例に多く遭遇する。全身療法薬よりも外用療法の薬袋記載に時間をかけるよう心掛けてほしい。また、外用療法に関しては院内処置を通して、飼い主へ投薬指導を行うことが推奨される。

皮膚は外界に接する臓器であり、常に外部からの刺激に曝されている。また、皮膚は体の中を映す鏡とも呼ばれ、他臓器のトラブルに伴って傷害を受けることもある。このような過酷な環境下におかれる皮膚が生き生きと働いてもらうためのツールがスキンケアである。疾患の治療時のみならず、回復後に健康で美しい皮膚を維持するために日常的にスキンケアを行うことの重要性をオーナーに説明する。
スキンケアは上述の洗浄や保湿が基本となるが、皮膚の保護、皮膚の賦活、栄養管理、生活環境の管理、ストレスケアを組み合わせたトータルスキンケアが重要である。オーナーと症例のライフスタイルを聴取し、実施可能なスキンケアを定期的に指導することが強く推奨される。


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