学術情報

獣医療における血圧測定の現状とテクニック

東京農工大学 農学部 獣医学科 講師 福島隆治
現日本獣医生命科学大学を卒業後、東京都内での動物病院勤務を経て、日本獣医生命科学大学 博士課程を修了。専門は循環器、超音波診断。

獣医療における血圧測定の現状

ヒト医療では、血圧測定は医療現場において日常的に行われている。また多くの血圧測定機器が市販化されており、健康管理を目的として家庭においても血圧測定が行われている。一方、獣医療における血圧測定は、欧米の高次医療施設では一般的であり、開業病院においても徐々に普及している。

しかし、日本では開業病院のみならず高次医療施設においても、日常的な検査には至っていない。しかし、犬猫においても各種疾患と血圧値の関連性が報告され、その重要性が報告されつつある。よって獣医師は、血圧測定をスクリーニング検査や健康診断のための有力なツールの一つとして、新たに認識する必要がある。

血圧測定法の種類

血圧測定法の種類
[ 観血的(直接)血圧測定 ]

高精度かつ連続したモニタリングが可能であるため、血圧測定のゴールドスタンダードである。カテーテルを直接動脈内に設置し、電子圧トランスジューサーにカテーテルを接続することによって測定される。技術的にやや難しく、侵襲性であることなどから日常的検査における有用性には限界がある。

しかしながら、直接血圧測定は、低血圧や高血圧に命を脅かされている動物や、麻酔処置の危険性が高い動物のモニタリングには、本来は必須と考えられている。

[ 非観血的(間接)血圧測定 ]

一般的に日常的な血圧測定は非観血的血圧測定によって行われる。いくつかの間接血圧測定の方法が利用可能であるが、すべて加圧されたカフの下流における動脈血流の検出が基本である。

[ 超音波ドプラ法 ]

超音波ドプラ法による血圧測定器には圧電気クリスタルを内蔵した小さな超音波プローブがついている。プローブから送信された超音波が血流中の赤血球に遭遇し、プローブ内部にある後方の受信素子に反射され、そこで増幅器により聴取可能な音になるまで脈波が変換される。

携帯のアネロイド血圧計のカフは、拍動が聞こえなくなるまで加圧させられ、カフ圧を記録する間にゆっくりと減圧させられる。拍動音が聴取されるようになったときの圧がSBPである。SBPに関しては信頼性のおける測定値が得られるが、信頼性の高いMBPならびにDBPの測定値を得ることは非常に難しい。

また、被毛による摩擦音が測定時の障害となるため、プローブを当てる部位の剃毛が望まれる。そして、血圧測定中には動脈の上にプローブを固定することが要求される。

[ オシロメトリック法 ]

動脈壁の直径の変化によって発生する振動の変動を検出することを測定原理としている。動脈上にあてがわれたカフを減圧していくにしたがって脈の振動が急に増加する点のカフ圧がSBPである。カフ圧を下げていって、振動が最大になる時のカフ圧がMBPである。この後、振動が急に減衰していき、減衰がゆるやかになる時のカフ圧がDBPである。

オシロメトリック法は、過去には猫における血圧測定としては適さないと言われていたが、機器の改良により、犬猫の両者において信頼性の高い測定値が得られるようになってきている。オシロメトリック法により得られた測定値は、観血的血圧測定による測定値と比較して、しばしば低値を示す可能性がある。

[ フォトプレチスモグラフィ法 ]

赤外線を放出させて動脈内の容積を計測することにより、血圧値を求めることを原理にしている。測定部の動脈の上にパルスオキシメーターのプローブを固定し、モニター上の脈波が消えるまでカフ圧を上げる。その後、カフを減圧して再びモニター上に脈波が出現した瞬間の血圧値をSBPとする。

被毛のない部位を選択する必要があるため、剃毛が要求される場合がある。また、皮膚色素が濃い場合は、赤外線の通過に支障を来たし測定値を得ることが困難なことがある。

非観血的血圧測定の中で、どの装置ならびに手法を選択するかは迷うところである。価格、大きさ、測定値の信頼性、これら全てが重要であることに間違いない。このうち測定値の信頼性に関しては、機器固有の限界、計測者側の問題、被検査動物側の問題など様々な要因により左右される。機器の販売メーカーに、観血的血圧測定により得られた血圧値と、使用機器により得られた血圧値の相関性を尋ねることは重要である。また、その際には測定部位ならびに測定時の体位などの情報が得られれば、実際の測定に大いに有用である。

血圧測定値の定義

SBP(systolic blood pressure) 収縮期血圧(収縮期の最高値)
DBP(diastolic blood pressure) 拡張期血圧(拡張期の最低値)
MBP(mean blood pressure) 平均血圧(1心周期を通じての血圧の時間的平均)

※MBP≒DBP+(SBP−DBP)/3により近似値が計算される。

※SBPとDBPの差を脈圧(pulse pressure)と呼ぶ。

各血圧測定法の利点と欠点

利点 欠点
観血的血圧測定
  • ゴールデンスタンダード
  • 瞬間的な血圧変動の観察が可能
  • 持続的な血圧測定が可能
  • 血液サンプルの採取が可能
  • 技術の熟練が必要
  • 侵襲的
  • 血栓形成や感染の危険性
  • 装備の費用が高価
超音波ドプラ法
  • 低血圧動物に対する正確性
  • 比較的に低費用
  • 平均血圧ならびに拡張期血圧の測定に無力
  • 猫ではしばしば過小評価の傾向有り(10-14mmHg)
  • 測定が簡便でない(両手がふさがる等)
  • 剃毛がしばしば必要
オシロメトリック法
  • 測定が簡便
  • 多くは自動施行能力を有する
  • 重度の血管収縮、徐脈、不整脈で測定値が不正確になり得る
  • 体動により測定値が不正確になり得る
  • 猫では測定が困難である場合あり(高血圧の猫で過小評価)
  • 装備の費用が高価
フォトプレチスモグラフィ法
  • 比較的に低費用
  • 平均血圧ならびに拡張期血圧の測定に無力
  • プローブの接触部の皮膚色により測定困難
  • 測定が簡便でない(両手がふさがる等)
  • 剃毛がしばしば必要

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