学術情報

獣医療における血圧測定の現状とテクニック

東京農工大学 農学部 獣医学科 講師 福島隆治
現日本獣医生命科学大学を卒業後、東京都内での動物病院勤務を経て、日本獣医生命科学大学 博士課程を修了。専門は循環器、超音波診断。

非観知的血圧測定手技の問題点

[ カフの選択 ]

カフのサイズ選択は重要である。カフの幅は巻き付ける部位の周囲長の30〜40%幅が理想とされている。それよりも広いカフでは低値、狭いカフでは高値を示す。小さな破損でも加圧や減圧に支障を来すため、カフは消耗品であることを認識しておかなければならない。

[ 測定部位ならびに体位 ]

測定部位は、カフの設置が大前提となるため、前肢(前腕部の手根関節上部)、後肢(下腿部の足根関節上部)および尾部(尾根部)の3部位が候補となる。一方、大動脈弁レベルからカフ設置部位が1cm下降すると血圧測定値は0.7〜1.0mmHg上昇するとされるため、測定部位の高さと心臓の大動脈弁レベルの高さが同一であることが望ましい。

よって、血圧測定における体位と測定部位との組み合わせとして、立位であれば尾部、横臥位あるいは伏臥位であれば前肢、後肢、尾部が選択される。

動物のストレスを可能な限り軽減するためにも、無保定あるいは最小限の保定が望ましい。そのため、血圧測定は可能であれば立位あるいは伏臥位での実施が選択されるべきである。猫は腹臥位を好むが、犬は自発的に腹臥位とならない個体に多く遭遇する。

非観知的血圧測定手技の問題点

無麻酔下では尾部での測定が有用と考えられる

我々は、前肢、後肢および尾部の3部位における血圧測定値の差異を検討した。その結果、3部位ともに同様な測定値が得られた。しかし、その中で血圧値がより早く安定するのは尾部、前肢、後肢の順であった。

後肢における測定に関して、立位では心臓の位置より低く、さらには踏み直りの動作による体動の影響が比較的に強く認められた。また、腹臥位ではカフが圧迫されて測定値の信頼性が著しく低下した。

無保定の猫の中には、前肢における測定に対し不快感を示し、前肢を振る動作を呈する個体がしばしば認められた。血圧波形解析装置により判定した結果、この動作により血圧測定値の信頼度が低下していた。

尾を振る動作に関しては、測定値への影響は無〜極軽微であった。また尾部はカフの装着が容易、無保定でも測定可能、体動の影響が他の部位よりも軽度など多くの理由により、無麻酔下での血圧測定の際には尾部での測定が有用であると考えている。

[ 被毛 ]

我々はビーグルを用いて、測定部位における被毛の有無と血圧測定値との関連性について過去に調査した。その結果、被毛の有無による測定値の差異は認められなかった。したがって、ビーグル程度の被毛であればカフ設置部の剃毛は不必要であるが、被毛の存在が明らかに影響すると考えられる場合は、被毛のかき分け、水などにより被毛を湿らせる、または剃毛などが必要と思われる。

経験的に、秋田犬、柴犬、シベリアンハスキーなどは、カフ設置部位における何らかの被毛の処理が必要な場合が多い。しかし、剃毛によるカフの脱落というアクシデントの増加には注意が必要である。

また、非観血的血圧測定の手法別と被毛の関連性という面では、超音波ドプラ法やフォトプレチスモグラフィ法は、ピンポイントで動脈上にプローブを固定する必要があり、プローブ設置部の剃毛が比較的強く望まれる。それに対しオシロメトリック法では、カフ設置部の振動を感知しているため、感知感度を上げることにより剃毛の必要性は減弱する。

[ 測定環境 ]

多くの犬猫は、動物病院に来院する、そして血圧測定を行うというイベントにより、少なからず緊張状態に曝されているものと推測される。

我々は、診察台上と動物が普段生活しているケージ内の両者において血圧測定を行ってみた。その結果、血圧値には差異が見られないものの、測定値が安定するまでの時間はケージ内が明らかに早かった。また測定値は、測定開始から5〜7分をかけて徐々に安定することが判明した。

犬猫の緊張状態を回避あるいは軽減する手段として、カフを血圧測定実施の数分前に測定部位に設置する、小型犬種や猫などではキャリー内あるいは飼い主の膝の上での(飼い主の存在で興奮が助長される動物の場合は、飼い主のいない場所で)血圧測定を行うなどの工夫により、より迅速かつ信頼性の高いデータを得ることができると考えられる。

血圧測定のテクニック

  1. 測定部における周囲長の30〜40%幅である適切なカフを選択する。
  2. カフ設置部やセンサー設置部の被毛状態を確認し、必要であれば何らかの処置を講じる。(超音波ドプラ法やフォトプレチスモグラフィ法であれば必須)
  3. 最初にカフを前肢あるいは尾部など測定部に設置する。
  4. 動物を落ち着かせる意味で、カフを設置したまま暫く(5分〜)その状態に慣れさせる。(この間に稟告の聴取や血圧測定器の設定を行う)
  5. 測定体位は可能な限り保定が不必要な体位とし、カフと心臓の位置が同じ高さになるようにする。
  6. 興奮する猫は持参のキャリー内に入れ照明は薄暗くする。
  7. 主観的に落ち着いたと判断したら血圧測定を開始する。(多くの動物において、測定中に心拍数が徐々に低下し安定する現象が認められる。これを動物の安静下の指標とすることも可能である)
  8. モニターや印字プリントが付属している場合は、各測定法で得られる理想的な圧波形と測定によって得られた圧波形が類似しているかを確認する。
  9. 少なくとも3から5回の測定を行い、測定値の変動が5mmHg以内であるものが3回得られるまで繰り返す。

petMAPと観血式測定の相関(小型犬・麻酔下での測定)

petMAPと観血式測定器の測定結果は、他機器での測定結果も踏まえると相関性が高いと思われる。(petMAPのメモリは5単位)麻酔下での測定では前脚が一番相関しているが、無麻酔下(例えば診察時)の測定においては、体動による影響や心臓と測定部の高さの差などを考慮すると、尾部での測定がより安定的だと考える。

petMAP(メモリ:5単位) 観血式測定
測定部位 心拍数 収縮期血圧 平均血圧 拡張期血圧 心拍数 収縮期血圧 平均血圧 拡張期血圧
尾部 100 85 60 45 97 73 62 52
100 75 55 45 97 73 60 50
100 70 55 40 96 73 58 49
95 70 55 45 97 75 60 50
95 75 60 45 96 77 62 52
前脚 80 105 70 55 80 102 71 54
80 95 65 55 80 101 70 54
80 100 70 55 80 99 70 54
80 95 70 55 80 98 69 53
80 90 70 55 81 97 69 53
後脚 80 110 55 25 80 94 68 52
80 135 85 65 81 92 67 52
80 135 85 65 81 92 67 52
80 150 100 65 81 91 65 52
80 140 110 80 81 91 66 52

データ提供:東京農工大学 福島隆治先生


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