学術コラム

高齢動物の看護 〜動物看護師の視点から〜

  • 一般社団法人 日本動物看護職協会
    専務理事 齋藤 みちる

【高齢動物看護】
動物看護は、動物達が健やかな一生を全うできるように援助することを目的としています。動物医療の発展と動物の平均寿 命の上昇により、動物の世界でも高齢化は様々な課題を生み出しており、動物看護・介護の重要性は高まってきています。 ここでは動物看護のポイントと、揃えておくと便利な製品、私見ではありますが、私自身の経験談をご紹介いたします。

排泄管理について

(1)ペットシーツ

ペットシーツにも両面吸収など、いろいろな種類のものがあります。用途に合わせて上手に工夫し使用して、なるべく体に排泄物が付かないようにしましょう。会陰部、ペニス、肛門周辺などに上手く当てがって使用すると良いでしょう。

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(2)紙おむつ/紙おむつカバー/おむつパンツ

最近の動物用紙おむつは、だいぶ安価になってきました。また、大きさも様々な犬種に対応出来るようになっています。筋肉量が落ちた大腿部からの漏れがおきないような工夫も見られます。
しかし、認知症などによりバタバタと両足を動かす犬の場合は、紙おむつがズレやすいことがあります。
その場合はサスペンダー付きの紙おむつカバーをつけたりしますが、ゴロゴロしておしりが膨らんで嫌だという飼い主さんには、おむつパンツに専用のパットをつけて履かせると、スッキリとして動いてもズレにくいようです。動物の状態に合わせて上手に使い分けると良いでしょう。

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私の経験談

介護中は排泄の管理に困られている飼い主さんが多く見られます。動物によっては排泄の前に鳴いて知らせる、食後すぐなど、必ず排泄するタイミングとサイクルがある場合は比較的管理も楽なようです。

しかし、基本的には寝たきりであると座位が取れないため、横になったままの排泄となります。皆さんいろいろと工夫されていますが、寝たきりが長くなると筋肉量が落ちてきて、大腿部も細くなりオムツなどを使用していても、隙間から漏れたりすることもあります。

また、下半身の運動性が高い動物では、足をバタつかせてオムツがズレることがあります。
体格が非常に大きい超大型犬のピレネーの男の子が寝たきりになり往診に行っていた時には、「食欲が旺盛なぶん、排泄量が多く、往診時に排泄をすると取り換えを手伝ってもらえるから助かる!」と飼い主さんがおっしゃっていました。

その子はなぜか往診時に排便をすることが多く、日中は1人で介護されているため、体位変換や排泄の処理が大変で、飼い主さんは腰を痛めてしまったそうです。毛吹きの良い犬種の場合は肛門周りの被毛をバリカンやハサミであらかじめ切っておくと排泄後に洗ったり、拭いたりするのが容易です。尻尾もライオンカットに刈り、肛門に近い方を短くするのもお勧めです。

しかし、その形にカットすると同居しているネコがじゃれて困るのでそのままで介護されていた飼い主さんもいらっしゃいました(笑)。

歩行補助について

(1)歩行補助用具

完全に寝たきりになっていない犬は歩行補助用具によって、歩行することが出来ます。症状が軽い犬は後肢用のハーネスだけでも十分に歩行が助けられます。

大型犬や自立歩行がかなり難しくなって来ている犬は前肢側、後肢側両方に胴体をしっかりと包んだ状態のハーネスかハンドルをつけて歩行を補助してあげるとさらに安定感があります。歩行出来ても立ち上がるのが困難な犬の場合も、このハーネスで立ち上がらせてあげると良いでしょう。

お散歩は多くの犬にとって大変な楽しみです。たとえ、少しの距離やお庭の中だけでも歩けるとストレス発散になります。また、家の中で歩行させる時は、滑らない素材の床で歩行させるように十分に注意しましょう。滑ってしまい前十字靭帯を切ったり、膝蓋骨や股関節を脱臼したり、ひどいと骨折をしたりする場合があります。

現在はいろいろなメーカーから様々なタイプの歩行補助用具が出ています。そのまま排泄が可能であるよう設計されている物もあり、大変便利です。高価なものもありますが、その動物の症状や状態に合わせて選んであげると良いでしょう。

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(2)靴

歩行が上手に出来ない場合、足を引きずったり、ナックリングして足先が擦れる場合があります。そのため、靴を履かせることが外傷予防となるでしょう。冬場は特に乾燥するため有効です。肉球のケアは念入りに行いましょう。

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私の経験談

犬が高齢になってくると筋肉量の低下などの様々な原因により、後肢のふらつきが見られるようになることがあります。犬の体重の負重は前肢:後肢、7:3位の割合です。高齢になると四肢の筋肉量が低下して歩行が困難になってきますが、自分で歩く意思があるときは危険の内容に注意して、下半身を支えるサポーターなどによって歩行を助けながら歩かせてあげると、排泄ができたり、ストレス解消、または筋力の低下を遅らせる効果があるように思います。大型犬ではなかなか市販のものがなく難しいですが、小、中型犬は上半身m下半身両方が支えられるとより安定して歩行できるようです。何よりも散歩が大好きだった犬が寝たきりになった場合など、足をバタつかせて鳴いている(認知症の場合以外)と歩きたいのかな?と思うことがあります。

しかし、大型犬や超大型犬の歩行介助は飼い主さんの体格にもよりますが大変ですので、腰を痛めたりしないような注意が必要です。近年では、飼い主さんの年齢も上がってきています。高齢の大型犬で運動性が低くても、散歩中に急に他の犬が飛びついて来たり、何かの拍子や刺激で思わぬ動きや力の強さを発揮する時があり、飼い主さんが転倒したりして、けがをする危険性があります。自分の散歩させている犬と周りを散歩している犬は同じ健康状態ではありません。高齢の補助を受けながら歩いている犬、整形外科手術後のリハビリの犬、ワクチン接種がすんでお散歩デビューの仔犬などいろいろなライフステージと健康状態の犬がいて、飼い主さんもいろいろな人がいます。散歩をするときはよく周りに注意して、自分の犬が近づきたがるときなどは相手の飼い主さんに声掛けをして、確認したから遊ばせるようにしましょう。

寝たきりになった高齢のラブラドールの定期的な住診に伺った時、手足をばたつかせて鳴いていました。獣医師の診察が済み、飼い主さんと私で軽いお話をしました。日中たった1人でその子を介護している奥様のストレス発散になればと時間をとってお話を伺っていました。その奥様はご主人と2人暮らしでお子さんはおらず、その犬をご夫婦で子供の用にかわいがっていらっしゃいました。元気に歩行ができた頃は、海岸をお散歩しているのをよくお見かけしました。その奥様は突然涙を流しながら「あんなにお散歩が好きだったのにこの子は歩けなくなり、寝たきりになって幸せなのかしら?これでいいのかしら?」とおっしゃいました。みなさんはこう質問された時、どうお答えになりますか…?


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