学術コラム

高齢動物の看護 〜動物看護師の視点から〜

  • 一般社団法人 日本動物看護職協会
    専務理事 齋藤 みちる

【高齢動物看護】
動物看護は、動物達が健やかな一生を全うできるように援助することを目的としています。動物医療の発展と動物の平均寿 命の上昇により、動物の世界でも高齢化は様々な課題を生み出しており、動物看護・介護の重要性は高まってきています。 ここでは動物看護のポイントと、揃えておくと便利な製品、私見ではありますが、私自身の経験談をご紹介いたします。

食事補助について

(1)食器

寝たきりの動物は、器から食事を摂るのが難しい場合があります。飼い主さんが手で食べさせる場合もあると思いますが、最近では取手がついてその動物の首の傾き具合に合わせて、飼い主さんが器を支えるのに便利な製品もあります。こうした製品は、飼い主さんが動物の状態を観察しながら、高さや傾きを変えて食事を与えることが出来て便利だと思います。食器を動かさないよう固定しても、動物がその位置にあわせて食事を続けることが難しい場合もあり、動物の状態に合わせた工夫が必要だと思います。

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(2)スプーン・給餌

寝たきりで首を持ち上げることが出来ない動物には、スプーンや給餌器で口に食事を運んであげることも出来ます。しっかりとした素材で持ち手が長く、動物が噛んでも簡単に壊れず、しかし固過ぎて歯肉を痛めない素材のものが望まれます、流動食を検討されるのも良いでしょう。

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私の経験談

寝たきりの動物の楽しみの1つとしてお食事があります。寝たきりでなくても食事を大きな楽しみ喜びとしている動物は多いですよね!

しかし、通常の高齢犬は食事を摂る速度が遅くなり、上手に食べることが出来ません。同居犬がいる場合は、横取りされて喧嘩になったりする時もあります(私の家でよく起こっていました)。

さらに、首を持ち上げる姿勢が難しい場合は飼い主さんが手で口元に持っていって食べさせたり、ムラ食いをする子や食欲が低下している子は、飼い主さんが1日中食事介護を頻繁にしなければならず、大変な思いをされていることもあります。自分で食べる気力が十分な犬は、お皿を飼い主さんが犬の口の位置に合わせて支えていられるような食器もあるようですので、そのようなアイディアグッツを利用すると犬もストレスなくこぼさずに食事を取れるようです。

また、プラスチック製のしっかりとしたスプーンに乗せて口に運んだりすると食べ易い子もいるようです。その際、大型犬で食欲旺盛な子などでは、慌ててスプーンごと飲み込ませないよう誤食に注意する必要があります。

犬は短頭種や長頭種によって顎の長さも異なります。その犬の口の形状や食欲、状態に合わせて創意工夫が大切です。食事は毎日のことなので、多くは飼い主さんの方が良く考えられていることが多いです。皆さんも飼い主さんと一緒に知恵を巡らせると更によいアイディアが産まれるかもしれませんね。

介護食について

介護食

残念ながら老齢期になると今までの食事を食べられなくなることがあります。特に大きな疾患がなく主治医の先生から指定の療法食が無い場合、とにかく食事を食べて欲しい場合は、お湯で練ってその動物の好みの粘度にして食べさせられる食事を選ぶと良いでしょう。こうした食事は嗜好性の高い物が多く、食欲の低下した動物にも与えやすいと思います。

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私の経験談

高齢犬で寝たきりとなると疾病等も抱え、療法食が病院より出されている場合も多いと思います。

しかし、「何の制限もないと何を食べさせたら良いのか迷う」と、相談を受けたりすることもあります。また、口腔内の状態によりドライフードしか食べなかったのにウェットフードでないと食べないなど、犬の場合は食の好みが変化することがあります。特に高齢犬の場合は脱水が起きたり、寝たきりの場合は腸の動きが悪くなるため、便秘気味になることも多く、飲水量を増やしたりウェットフードを足したりする必要もあると思われます。

ただし、ドライフードでもしっかりと食事を取れていて便の状態も良いのであれば、あえて食事を変える必要もないと思われます。そのあたりは犬の体の状態を考慮し、獣医師の先生と相談して決めると良いでしょう。

ターミナル期となり食欲がいよいよ落ちて来て、何も食べたがらない場合はいろいろと試してみる必要があります。ウェットフードの方が嗜好性は高いようです。

21歳の私のネコは20歳までドライフード以外は一切食べませんでしたが、老衰となりいよいよ食欲が落ちた時はウェットフード派となり、更にゼリー状のものを潰して細かくしたり、ウェットフードでも細かくしてあげると食べやすそうでした。犬も超高齢ではドロドロの形状のものが口当たりが良いように思います。ラブラドールで19歳だった子は、お母さんがササミを湯がいて細かくし同じく細かい野菜とお米をお粥状にドロドロにしておき、ラップで一握りずつ握って1週間分くらいを凍らして置き、お鍋やレンジで戻して適温して、3時間おき位に食べさせていました。

そのご家庭では3人のお子さんのすべての結婚式にその犬が出席するのが夢でした。長男さんの時は無事に参加できましたが、次男さんの結婚式の少し前に体調が悪くなり寝たきりとなりました。結婚式当日は早朝から病院でお預かりして私が夜まで、3時間おきにお預かりしていたお粥を解凍して食べさせ、体位変換や排泄のお世話をして一緒に過ごしていました。深夜に、奥様と一番下のお子さんが晴れ着で飛んで迎えにいらっしゃいました。『結婚式はいかがでしたか?』とお尋ねすると、「結婚式よりその犬のことが気になってしょうがなかった」とおっしゃっていました。

その子は若い頃お父さんの自転車につながって走り、海岸線を何キロも毎日お散歩していた子で地元で有名でした。大きな手術も乗り越えたその子は、結婚式の少し後に20歳目前で亡くなりましたが、ご家族は「悔いはありません」と涙ながらにおっしゃっていたのが印象的です。今でも車で海岸線を走っていると自転車のお父さんと走るその子の姿がよみがえって来ます。

寝たきり動物の移動時について

運搬用用具

寝たきりの大型犬などを通院時に運んだりする時、飼い主さんには大変な負担となります。それを助けるために力を使わずに、簡単に運搬出来る持ち手のついた運搬用のマット、ストレッチャーやキャリーなどがあると便利です。緊急時にも使用できます。

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私の経験談

寝たきりの大型犬や超大型犬は当院で基本的に往診をしますが、どうしても病院でないと出来ない検査が必要になったりすると来院して頂かなくてはなりません。

寝たきりでなくてもエマージェンシーで、車を側まで持っていけない場所で動けなくなったり、虚脱したり、意識を失っているとぐったりとした状態の超大型犬を抱えて運ぶのは容易ではありません。病院によっては、担荷やストレッチャーなどを準備していらっしゃるところも多いと思います。

超大型犬となると70Kgクラスの子もいますので、本当に運搬するの大変苦労します。私1人の時に病院へ連絡が入り、海岸で熱中症で虚脱している真っ黒なラブラドールを抱えて病院まで運んだ時は、必死であったため無事に抱えて何とか運びましたが、本当に大変でした。寝たきりの犬の飼い主さんがお家の中で寝たきりの犬を移動させるのは容易ではありません。

しかし最近はいろいろと工夫された良いものが出ているようですので、試してみると良いと思います。すべてネットになっているボックスにタイヤがついているものに寝たきりのピレネーを乗せてお散歩していらっしゃる方をお見かけしました。犬も外の空気を吸って楽しそうに見えました。
当院に仔犬の時から来ているラブラドールが寝たきりになりました。

ご主人と息子さんの身長はかなり高く体格も良いのですが、奥様はたいへん小柄なのに、その犬の面倒はほとんど奥様が1人で見ていらっしゃいました。体位変換なども大変でいらっしゃったと思います。奥様は家族が全く介護に無関心なのを不満に思われていて、一時期は褥瘡などもひどくなり、会う度に涙目になっていらっしゃいました。

奥様1人での介護は辛いので、ご家族の協力が必要だと考え、わざとご主人が休みの日にご主人に内服薬を取りに来て頂くよう手配して、ついでにいろいろとお話しをしました。(決して介護を手伝ってください!奥さんは参っています!などとは言ってはいけません!せっかくのお休みに○○ちゃんのために病院へ足を運んでくださったご主人を褒め世間ばなしがてら、ワンちゃんの様子を興味を持つように伺うのです!)その甲斐もあってか、ご主人も介護に積極的になるようになり、奥様より熱心に病院へその子を連れていらっしゃるようになりました。

そして、奥様とお話しすると、その子が奥さんが側にいないと寂しがって鳴くため、奥さんは側を離れられなくて困っていました。ですが、息子さんが犬の体をさすっていると、大人しく気持ち良さそうにしていてその間に用事が済ませたそうです。
奥様は『今まで何もしなかったのに比べると大きな進歩です!』と嬉しそうでした。その子もご家族に愛情をたっぷり注がれて天国へ旅立っていきました。数年経って、最近そのご家庭では別の犬を飼われご家族で病院へまたいらっしゃるようになりました。とても嬉しい再会でした。

最後に

動物の介護用品はどうしても地味な柄や色の物が多いような気がします。飼い主さんが介護を明るく行なうため、モチベーションを高めるためにも、機能性は失わずにおしゃれなデザイン、奇麗な色使いや可愛い柄のついたものなどがあると良いと思います。
高齢動物看護では飼い主さんの協力が不可欠なため、飼い主さんのモチベーションをいかに維持するかが重要です。

また獣医師、動物看護師、飼い主さんの3者の協力によるチームケアは、高齢動物看護の基本と言えます。
看護・介護を行う上で不安を抱える飼い主さんの助けになるためにも、動物看護師の皆さんは、専門職として、飼い主さんの立場に立った看護を心がけましょう。


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