デンタルホームケア指導法

フジタ動物病院 院長
獣医師 藤田 桂一

歯周病は、毎日のケアで予防できる疾患である。理想的には、社会的形成期の歯磨きを覚えてもらい、習慣化することであるが、すでに歯周病などに罹患している個体では、歯垢・歯石除去や歯周外科治療、あるいは抜歯などを行って炎症をなくしてからデンタルホームケアを行うことが大切である。(歯科診察の基礎テクニックはこちら

歯周病の予防方法

歯周病治療を行っても、その後口腔内の衛生管理を行わなかった場合は急速に歯面に歯垢・歯石が付着する。そのため歯周病予防としてデンタルホームケアは欠かせない。そのゴールドスタンダードは、歯ブラシを用いた歯磨きである。しかし、どのようにしても個体が非協力的なために歯磨きができないと訴える飼い主は少なくない。このような場合は、順を追っておこなうことにより歯磨きができるようになることが多い。

デンタルホームケアのスタート年齢と頻度

【1】デンタルホームケア(歯ブラシ)ができるようになるまで

飼い主にデンタルケアができるまで準備するものは、下記のとおりである。

準備するもの

(写真1)

デンタルホームケアが大切であると認識された飼い主が、いきなり歯ブラシを用いて「歯磨きをするぞ!」と意気込んで行おうとすると個体も緊張して身構えてしまい、それ以上のケアができなくなることが多い。このような場合、大切なことは、まず、飼い主自身がリラックスした気持ちで、個体もリラックスさせて、飼い主さんの指で個体の口腔周囲を触れることに慣れさせることから始めることが大切である。(写真1)


(写真2)

その際、その都度、誉めてあげ、好きなご褒美をあげる。これを何度も繰り返す(写真2)。その後、飼い主が指で歯肉や歯面をそっとなでることを繰り返す。この際、開口する必要はなく、口を閉じた状態でよい。個体には口腔周囲を触れたら何かいいことがある、おいしいものがもらえると認識させることが重要である。

例えば、好きなデンタルジェルをなめさせてもよい(写真3)。
ここまでできるようになったら、指にガーゼを巻いて(写真4)水や湯、あるいは動物用歯みがきペーストで濡らして、あるいは、デンタルシートを用いて口腔内、とくに歯の側面をなでるようにして、これを繰り返す(写真5)。この際も閉口したまま歯の頬側面(外側面)のみ行えばよい。


(写真3)

(写真4)

(写真5)

(写真6)

これに慣れてきたら上顎犬歯の尾側を上方から人差し指と親指を用いて、頬の皮膚ごとやさしく巻き込むことで開口する(写真6)。
この状態では、個体にとって頬粘膜が歯列の内側にあるために口を閉じようとすると自らの頬粘膜を咬むことになるので開口したままの状態が保たれ、このまま下顎歯の頬側面・唇側面(外側面)や上下顎歯の舌側面(内側面)の歯面をなでるようにする。また、ガーゼやデンタルシートに慣れてきたら、次に指サック式デンタルブラシやなどを用いて歯磨きを行ってもよい。

【2】正しい歯磨きの方法

歯ブラシの選び方

歯ブラシは、動物用のものでも人間の子供用のものでもよいが、比較的小さなヘッドで適度に軟らかい細い毛のついたものがよい。細い毛であれば歯肉溝の中に入り込み、歯肉溝の中も磨くことができる。
※歯ブラシは長期間使用していると毛の弾性が減少して毛先が広がり歯肉溝内や歯間部に毛先が入り込まなくなるため歯垢除去効果が減少し、歯肉や粘膜に損傷を与えるので新しい歯ブラシと交換する。

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歯磨きの方法

◎小型犬・猫:バス法

バス法は、歯ブラシの歯面に当てる角度を約45度にして前後に小刻みに歯ブラシの毛先を動かして歯頸部と歯肉溝内を磨く。

◎中型犬以上:バス法+フォーンズ(ローリング)法

(写真7)

歯ブラシに慣れさせることができたら、はじめて歯ブラシを使用する。
口腔内では歯以外は粘膜で被われており、粘膜に乾燥したものを挿入すると痛がるため、歯ブラシやシートは湿らせて実施する(写真7)。


(写真8)

水や湯、あるいは、個体が好きな味の歯磨きペーストを付けて最初は口を閉じたまま上顎臼歯の頬側面を磨くようにする(写真8)。


(写真9)

歯磨きを行うことで唾液が多く分泌されるために唾液による清浄効果(自浄作用)や抗菌作用も期待できる。
次第に慣れてきたら、前述のように開口させて歯の舌側面や下顎臼歯の頬側面を磨くようにする(写真9)。歯ブラシを用いた歯磨きは、歯肉縁下1〜3mmまでの歯垢が除去可能である。

歯ブラシは、徐々に段階を踏んで慣れさせていくことが重要である。

注意

人用歯磨きペーストはフッ素を多く含んで消化器障害を引きおこすことがあるため使用してはいけない。

歯ブラシを始める年齢

理想的には社会的形成期と言われる頃−乳歯列(生後3週間から4あるいは5ヶ月齢まで)の頃から歯磨きに慣れさせることである。ただし、歯の交換期において脱落しそうな乳歯は歯根が吸収され、歯肉縁が発赤して炎症を認めるので、その部位の歯磨きは避ける。
また、この社会的形成期に実施できなくとも、ケアを行おうと思った時がデンタルケアのスタートである。しかし、中年齢〜高齢の個体では、多くは、すでに歯周病に罹患しているので病院で歯垢歯石除去や抜歯などの治療を行って正常な歯肉の状態にしてからデンタルケアを開始する。

歯ブラシを行う頻度

犬では3〜5日で、猫で約1週間で歯垢から歯石に変化するので歯磨きでは歯石の除去は不可能である。したがって、少なくとも歯垢の段階で歯磨きを行うことが重要であり、理想的には1日1回ケアをするとよい。
デンタル模型(透明顎や、歯と顎)は、飼い主に実際の歯磨きの方法を知っていただくために実施している光景を示すことで使用できる。その後、飼い主が歯磨きが適切にできているか否かを確認するために個体の歯に歯垢染色液を塗って磨き落としがある部位を示すとよい。

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【3】デンタルケア商品の利用について

現在、動物病院のみならず、ホームセンターやペットショップなどでは歯周病予防効果を示す、いわゆるデンタルケアグッズや療法 食、トリーツなどが数多く市販されている。個体が協力的でない場合など個体の歯磨きができない場合、療法食やデンタルケアグッ ズの使用は効果的である。

療法食

・食餌表面にポリリン酸の微結晶でコートしたものがあり、その結晶が歯垢表面に物理的バリアを形成することにより歯垢が石灰化して歯石に変化する過程を防ぐ。
・特殊な層状構造の食物線維によって咀嚼するたびごとに歯面に付着したものを物理的に削ぎ落とし、除去する。

歯みがきペースト・オーラルスプレー

グルコースオキシターゼ、ラクトペルオキシターゼ、ラクトフェリン、リゾチームなどによって抗炎症効果を期待した歯周病関連細菌の生息を防ぐ。

液体

飲み水にキシリトールや抗炎症作用の天然酵素などが含まれた液体を混ぜる。

その他

・デンタルガム
・デンタルチュウ
・口腔滴下品
・口腔用プロバイオティスク
・口腔用インターフェロン

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以上の商品は、程度の差はあるが、歯垢除去効果や歯垢・歯石付着予防効果、あるいは口臭抑制を示すと思われる。しかし、咬むタイプの商品は、咬んだ部位のみ効果を示すが、他の部位では効果的でなく、口腔内に入れるだけや飲み水に含ませるタイプの商品は強い効果は望めない。
最大に効果を示すのは歯面の機械的な清掃である。したがって、歯垢・歯石が付着しやすい歯頸部には、結局、歯ブラシを用いた歯磨きに勝るものはない。そのため歯磨きと他のケア商品を併用することが薦められる。

注意

動物が咬むだけで歯周病予防効果があると謳っている商品も多いが、硬い生皮、蹄(ひづめ)、骨、プラスチック、金属、硬いゴム、玩具などは、特に犬の上顎第4前臼歯の平板破折や歯の摩滅を引き起こすことが比較的多いため与えないように注意する。
また、比較的軟らかいと思われるテニスボールやサッカーボールなども長時間与え続けることにより咬耗を生じることもあるので注意が必要である。


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