学術情報

アトピーと脂漏症をコントロールする

下館動物病院 中島尚志
自身の診療経験から、皮膚科専門医療と日常臨床とでは疾患の種類と 重傷度に決定的な差異が生じていることに気づき、日常の皮膚科症例をより効果的かつ合理的にコントロールすることを目的に‘臨床皮膚科’ の概念を提唱する。
世界小動物獣医師会学会にて‘犬体表付着物の研究’を発表。独自の 基礎データベースによる理論的ケアと医学に準じたスキンケア理論でほとんどの皮膚疾患が軽快することを経験。以来、専門医療とは一線を画した臨床でより有効な皮膚疾患の治療をいくつかの病院で実践中。
大部分の皮膚疾患は、的確なスキンケアによって臨床症状を 軽快させることが可能ですが、特にアトピー性皮膚炎と脂漏症 では、多くの場合劇的な効果が期待できます。これらは別の疾 患ではありますが両者が関連している例は多く、コントロールす るにはそれぞれの皮膚病を十分に知ることが大切です。

なぜアトピーがコントロールできないのか?

アトピーは多因子疾患であり、その病態には免疫学的側面と 非免疫学的側面があります。

アトピーの免疫学的側面

IgEによる反応
体には侵入してきた異物に対するさまざまなバリア機能があ り、中でも重要なシステムが抗原抗体反応という反応です。これ は、侵入してきた異物を細胞が覚えていて、次に侵入してきたと きに、よりうまく処理するための反応です。皮膚に異物が侵入し てくると、免疫の見張り役、ランゲルハンス細胞がそれを感知し てリンパ球に情報を送ります。リンパ球はIgEやIgGなどの抗体 を作り出して異物を処理します。このシステムに記憶された異物 が再び侵入してくると、より早く、確実に異物に対応できるとい う反応です。でも、ときにこの免疫反応が自分の細胞を障害する ことがあり、これがアトピー性皮膚炎の病理発生と考えられてい ます。

つまり、アトピー性皮膚炎とは、抗原に対する過剰な抗体産 生、通常はIgEの異常反応によってさまざまな皮膚病変を起こ す病気です。抗原には花粉、ハウスダストマイト、かび、表皮物 質、食物、昆虫の分泌物などなど、おそらくこの世のほとんど 全ての物質が抗原になる可能性があります。繰り返し抗原が 侵入してくると抗体は、より過剰に産生される可能性が高くな ります。

さらに、犬では人やハツカネズミで報告されている自然発症型 アトピーという病気によく似た反応についても理解しておく必要 があります。

IL(インターロイキン)による反応
よく知られたIgE反応以外にも、別の反応でアトピーが出るこ とがあります。人では、2003年の米国科学アカデミーで報告され ていて、IgEではなく、ILという物質が出て症状を出すアトピー がアトピーの20〜30%を占めるというものです。ハツカネズミの モデル実験動物も作られていて、自然発症型アトピーモデルハ ツカネズミといわれています。これは、抗原がなくてもアトピーを 発症し、IgEを作らないようにしても発症しますが、ILを作らな いようにすると発症しません。犬でも、この、IgE上昇がみられ ない、IL介在性のアトピーがあります。

非免疫学的側面

アトピーには免疫学的要素と異なるもうひとつの側面があり、 それは皮膚のバリア機能が低下することが主因のアトピーの発生あるいは悪化です。 そもそも、皮膚には強力なバリアがあり、このバリアは極めて 小さなものしか通過することができないので、金属分子や特殊 な薬物などしか通さず、通常の抗原はこのバリアを越えて体内 に入ることはできません。また、抗原抗体反応に関わるランゲ ルハンス細胞や白血球は体内にあります。したがって、アトピー 素因を持つ犬の皮膚の上に大量の抗原があったとしても、正 常な皮膚バリアがあれば、抗原と免疫担当細胞に接触の機会 はなく、皮膚症状は発生しないといえます。でも、もし何らかの 理由でこの皮膚バリアが弱まっていたなら両者は接触可能に なります。

本来なら抗原が侵入してきて、それに対して抗体を作るのは 病気ではなくて正常な反応ともいえます。なので、慢性的にバリ ア異常のある個体では過剰な免疫反応が出る、あるいは進行し ていく可能性が高いと考えられます。多くの犬のアトピーにはバ リア不全が存在し、これらの問題が重なって、症状を出している ということです。

犬アトピーの特異性

人のアトピーはおそらく免疫学的側面が強いと考えられてい ます。したがって、スキンケアや感染防御のみで改善することは 少なく、その治療にはステロイドや免疫抑制剤は必須といえま す。同様に、犬のアトピーも、従来の獣医皮膚科学で考えられて いる免疫学的要素を中心に研究、検査、治療がなされています が、その手法が根本的に吟味されたことはありませんでした。

実は、大部分の犬アトピーは、免疫学的要素をまったく考慮し なくても改善、維持することが可能です。具体的には、的確な感 染防御とスキンケアのみで劇的な改善をします。対してステロイ ドやシクロスポリンによる免疫学的な薬物治療のみではその効 果は一時的なものであり、長期的には臨床的改善、維持は不可 能です。結果論からいえば、犬のアトピーは人のアトピーとは異 なり、免疫学的要素が極めて少ないと考えられ、従来の、免疫 学的側面を中心に考えた治療では成功の可能性は極めて低い ともいえます。

* 経験的に、おそらく柴あるいはその雑種のアトピーは免疫学的要素が強 く、その面からの治療が必須となります。


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