学術情報

アトピーと脂漏症をコントロールする

下館動物病院 中島尚志
自身の診療経験から、皮膚科専門医療と日常臨床とでは疾患の種類と 重傷度に決定的な差異が生じていることに気づき、日常の皮膚科症例をより効果的かつ合理的にコントロールすることを目的に‘臨床皮膚科’ の概念を提唱する。
世界小動物獣医師会学会にて‘犬体表付着物の研究’を発表。独自の 基礎データベースによる理論的ケアと医学に準じたスキンケア理論でほとんどの皮膚疾患が軽快することを経験。以来、専門医療とは一線を画した臨床でより有効な皮膚疾患の治療をいくつかの病院で実践中。

脂漏症とスキンケア

 脂漏症は、角化症犬種のアトピーと関係していることがありま す。脂漏症の時に皮膚に分泌されるのは、コンディションの悪化 した皮膚からの“病的な汚れ”すなわち、コレステロールや遊離 脂肪酸などの皮膚に有害な分泌物と、加速したターンオーバー で蓄積した脱落角質細胞、そしてそこに繁殖した微生物、特に マラセチアです。マラセチア抗原に対する皮内反応は脂漏症症 例の約半数で陽性となります。

 普通のアトピー犬よりもターンオーバーが亢進し、多くの場 合、テープストリップ検査で有核細胞が見つかります。スキンケ アは普通のアトピー犬以上に大切で、薬物治療と同時に始める ほうがよいのですが、憎悪期の洗浄はシャンプーによる接触性 皮膚炎を誘発する可能性が高いために、ぬるいお湯以外での洗 浄はしないほうがよいでしょう。洗浄では皮膚の上の大量の油 脂が問題になるために、除去にはクレンジングを行う必要があり ます。十分に洗浄して水溶性の汚れを除去した後にクレンジング をします。その後、シャンプーでクレンジング剤を除去した後、十 分にすすいで保湿剤を使います。

シャンプーの選び方

 スキンケアの原点は、皮膚有害物質の除去と皮膚有益物質 の添加といえます。皮膚を洗浄することは、皮膚有害物質を除 去することで、スキンケアにおいて最も重要な行為のひとつで す。通常、犬の皮膚を洗う行為をシャンプーといい、そのための 洗剤はシャンプーと呼ばれます。スキンケアにおけるシャンプー は、皮膚病治療の一環として行われるために通常の犬の洗浄と は異なり、シャンプー剤選びとその使用法が極めて重要です。  シャンプーを選ぶための要素は、@目的とする汚れが確実に 除去できることA皮膚に対する毒性や刺激性がないこと と いえます。

@目的とする汚れを落とす

 洗浄しなければならない犬の皮膚の汚れには、古くなった角 質細胞や分泌された油脂や汗などのように生体由来の代謝産物 とアレルゲンやほこり、細菌や真菌などの微生物のような外界由 来のものがあります。犬の皮膚は密な被毛に覆われ、さらにワッ クスエステルなどの粘性の強い油脂があるために、これらの汚 れが大量に付着しています。通常の健康な皮膚がこれらの汚れ によって問題を起こすことはありませんが、病的な皮膚ではこれ らの付着物が皮膚病の原因や悪化因子になります。

これらの生体に不都合な汚れを除去するには、ある程度の洗 浄力が必要になります。しかし、皮膚の洗浄理論では、洗剤の低 刺激性イコール角質に対する浸透性の低い物質ということであり、ある程度の洗浄力を発揮する洗剤は、すべてある程度の 皮膚刺激性を有するということになります。一部のメーカーでは 刺激性を減らすために十分な洗浄成分を入れないで製品を作っ ていることがあります。人ではこれらの“低刺激性洗剤”は十分 な汚れの除去ができないことから皮膚病を悪化させることがあ ると報告されています。

スキンケアにおける洗浄の本来の目的が有害物質の除去であ る以上、犬のスキンケア用シャンプーの最も重要な機能は“十分 な洗浄力を持つ”ことといえます。

A皮膚に対する毒性や刺激性がないこと

残念ながらこの世のすべての界面活性剤(洗剤)にはある程 度の毒性があります。いいかえれば、皮膚に毒性をもたない洗剤 はありません。スキンケアにおける洗浄で重要なことは、洗浄に よる皮膚へのダメージをできるだけ減らすことです。したがって、 毒性や刺激性が低い洗浄剤を選ぶことが重要です。

一般に犬のシャンプーに使用されている洗剤には強い洗浄力 がありますが皮膚刺激性、毒性も強く、スキンケアには勧められ ません。非イオン系やアミノ酸系に分類される洗剤がスキンケア で使われるべき界面活性剤です。さらに最も毒性が強くなりや すいのが、消毒成分が含有された洗浄剤です。殺菌性を持ちつ つ細胞毒性がない製品は存在しません。クロルヘキシジン、メル ルーカオイル(ティートリー)、ケトコナゾールなどは強い刺激性 と毒性をもちます。これらの製品は、多くの場合、使用初期には その殺菌能から一時的な軽快をみますが、長期連用によって皮 膚病を悪化させます。

2001年4月からすべての人用製品のシャンプーや保湿剤の製 品作成はそれまでの承認許可制から届出制に変わり、そのときに 全成分を表示することが義務とされました。それ以前には特に 皮膚にトラブルを起こしやすい102個の成分を配合したときにだ けその成分名を記載するという義務がありました。これは今日で も“旧指定成分”としてネットなどで検索できます。旧指定成分 が入っていれば危険、入っていなければ安全というわけではあり ませんが、スキンケアには旧指定成分含有製品を使わないのが 鉄則です。しかし、犬用製品では全成分記載義務はありません。 したがって多くのメーカーでは都合の悪い成分は書かないという のが通例となっています。旧指定成分は大部分の製品に含有さ れ、その毒性から人体用に配合禁止となっている成分ですらいく つかの製品に含有されています。シャンプーを選ぶときに重要な のは含有成分の毒性を知ること、全成分記載でない製品は絶対 に使用しないことが重要です。

ケミカルハザード(化学物質の毒性の程度)は、物質としての 毒性の強さとその量、接触時間が重要な要素になります。毒性 が弱い洗剤でも大量に使用して大量に残留すれば強力な毒性 を発揮します。したがって、スキンケアに使用する洗剤は低刺激 かつ低毒性で、残留しにくいことが重要です。残留しやすいシャ ンプーとは保湿剤あるいはリンスイン製品です。界面活性剤の作 用は疎水基といわれる部分が油脂に結合することによって発揮 されます。油脂と混合された界面活性剤は油脂とともに皮膚に 残留し、長期的に毒性を発揮します。すなわち、洗った後も潤い を保てる洗浄剤はすべて“低刺激性かつ高毒性”の製品といえ ます。リンスは化学的に陽イオン系界面活性剤に分類されます。 つまり、実はリンスは前述の最も高い毒性を有するカテゴリーに 分類される洗剤です。したがって、リンスインシャンプーはすべて スキンケアには使用されるべきではありません。一般に保湿剤は シャンプーほどの毒性、刺激性を持つことはありませんが、より 長時間、皮膚に接触することを考えると、成分を十分に吟味する ことが必要です。

シャンプーの選び方

*全成分が記載してある
*配合禁止成分が入っていない
*旧指定成分が入っていない
*陽イオン系界面活性剤製品ではない
*汚れがよく落ちる
*保湿剤が入っていない
* リンスイン(プラスイオンで製剤を付着させる手法)で はない

シャンプーの使い方

*全成分が記載してある
* シャンプーの前によくお湯で洗浄することでシャンプーの 使用量を減らす
*よく泡立つ最小限の量で使用する
* シャンプー原液と皮膚を接触させないように泡だて器を 使う
*徹底的にすすいで洗剤を残留させない

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