学術コラム

基礎から学ぶ術前〜術後までの手術の流れ

  • 東京農工大学 獣医外科学教室
    准教授 福島 隆治

【手術フロー】
どんな手術においても、根本となる手技に関する一連の流れは同じものと言える。また、これらの基本的な手技の積み重ねが非常に重要である。今回の特集記事の内容は、筆者が日頃実践しているものであり、あくまでも一例である。よって本特集記事を参考にして、皆様なりにアレンジしていただきたい。手術に関わる個々が、高い意識を持っていただければ幸いである。

【13】術中の点滴

手術中の動物にとっては唯一の水分補給する方法

手術を行う上で体液の喪失は避けられず、体液の喪失は術後の循環不全、腎不全を引き起こす可能性がある。
そのため術中での適切な輸液管理が求められる。
特に患者に問題がなく長時間の手術でなければ、輸液ポンプを用い5ml/kg/hr 以上で維持を行う事が多いが、患者個々の状態に合わせた輸液管理を行うと良いであろう。
抗がん剤点滴等の繊細な点滴が求められる場合は、精度の高いシリンジポンプを用いるなどの工夫をすると良い。
酸・塩基平衡異常や電解質異常時の対応や輸液剤の種類に関しては、他書を参考にしていただき、輸液管理に対する意識を高めてもらいたい。

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【14】術野洗浄・保護

術後の適切な創傷管理は退院期間の長さを左右する

【準備しておくもの】
ポリウレタンドレッシング材(ハイドロサイト等)、ドレーン、包帯、滅菌ガーゼ、リンゲル液 等の洗浄液、各種テープ、滅菌簡易外科器具(デブリードマン用)、必要に応じて鎮痛剤

1.術創部における壊死組織、腫瘍細胞、不正肉芽の存在は、術創の融合を妨げる。
外科器具を用いて、念入りにデブリードを行い新鮮創にする(写真94)

2.縫合する前に術創を清潔にする。無菌的に組織刺激性の低いリンゲル液で洗浄する。縫合後も術創にリンゲル液で洗浄し、術創を清潔にする(写真95)

3.それぞれの手術に応じた縫合法で閉創する。この際死腔が形成されないよう 注意する。

4.創傷面に感染が認められる場合は閉鎖せず、ポリウレタンドレッシング材で被 覆する。縫合時同様、包帯等を併用して死腔が形成されないように気をつける(写真96)。多量の漿液の貯蔵が予想される場合には、縫合前にドレーンを留置すると良い(写真97)

ワンポイントアドバイス

・デブリードを行う際には、創面から採材を行い腫瘍細胞の有無を確認する。

・腫瘍細胞の存在、低蛋白血症、感染、副腎皮質機能亢進症の犬や猫白血病ウイルス感染症の猫では術創の回復が遅延するので、術前・術後の検査を元に対処すると良い。

・通常術後3 日後には白血球数(WBC 数)は減少していく。WBC 数が高いままであれば感染が疑われるため、適切な抗生剤の投与などの処置が必要になる。

・細菌性腹膜炎を起こした場合には速やかに開腹手術を行い、徹底的な洗浄、修復、排液を行う。

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【15】抜管・覚醒

手術の最後の仕上げ、最後まで気を抜かない

【準備しておくもの】
舌圧子、再挿準備しておくもの 管用の気管チューブ、バイトブロック、ガーゼ

1.吸入麻酔を終了し、調節呼吸を維持する。覚醒が近くなると、眼瞼反射(写 真98)、舌反射、下顎(写真99)に力が入ってくる。

2.自発呼吸が出てくしばらくすると、動物が咀嚼し出すので、気管チューブカフから空気を抜き(写真100)、気管チューブからチューブタイを外し抜管に備える(写真101)

3.素早く気管チューブを抜管する。この際、噛まれたり、気管チューブを破損しないよう気をつける。舌は可能な限り外に出しておく(写真102)

4.噛まれないように気をつけながら鼻先に手をあて、呼吸を確認する。確認が できないようであれば、即座に再挿管を行う(写真103)

ワンポイントアドバイス

・抜管後の舌が軟口蓋を塞ぎ、呼吸ができなくなることを防ぐため、舌は出来るだけ外に出しておく。

・特にパグやブルドッグなどの短頭犬種は、軟口蓋が塞がり易いので、必要に応じて舌圧子で軟口蓋を強制的に開き、呼吸を確保することを必要とする。

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撮影協力: 東京農工大学 獣医外科学教室(東京都)宮本昌弥、野澤千明、村田菊江

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