エキゾチックアニマルの診察の基本

酪農学園大学 獣医保健看護学類
准教授 佐野忠士
近年、動物のリハビリテーションの重要性は認識されつつありますが、対象症例および手法の選択を誤ると症状を悪化させる恐れがあります。リハビリテーションは医療行為であり、患者の症状・状態を把握している獣医師の指導の下、動物看護師、飼い主さんが協力して行う事が正しいリハビリテーションと言えます。今回は基本的なリハビリテーションの流れの一例をご紹介します。

【4】治療計画立案 T

治療計画の立案はリハビリテーションを行う前の重要な準備であり、基本的には症例ごとにリハビリテーションプログラムを構築します。プログラムの立案は、動物の状態把握と飼い主さんのリハビリテーションに対するモチベーション維持へとつながります。ここでは治療計画および患者状態の正確な把握のために必要不可欠な各検査方法を紹介します。

筋量の測定

専用のメジャーを用いた筋量の測定

肢の周径を測定することにより、筋量の評価を容易に行うことができます。
測定による誤差が最小となる測定部位をしっかりと理解しておく必要があります〈表1参照〉。

【表1】筋量(肢周囲径)測定の部位
表に示す領域での測定が最も誤差が少なく測定可能であると考えられています
測定部位
【上腕部】上腕骨(上腕骨の大結節と肘頭)の遠位1/3の部位で測定
【前腕部】橈骨(上腕骨外側顆と尺骨茎状突起)の近位1/4の部位で側定
【大腿部】大腿骨(膝蓋骨と大腿骨の大転子)の近位1/4の部位で側定
【下腿部】脛骨(脛骨粗面と脛骨外側顆)の近位1/4の部位で側定

関節可動域(ROM)の測定

角度計を用いた関節可動域(ROM)の測定

関節の機能を示すひとつの指標としてゴニオメーターなどを用いて測定し、客観的数値を得るようにします〈表2参照〉。

【表2】各部位の関節可動域(ROM)の正常値
※【 】内は正常なラブラドール・レトリバーにおけるROM
関節 屈曲 伸展
手根 20 〜 35【32】 190 〜 200【196】
20 〜 40【36】 160 〜 170【166】
30 〜 60【57】 160 〜 170【165】
足根 40【39】 170【164】
45【42】 160 〜 170【162】
股関節 55【50】 160 〜 165【162】
Jaegger, Marcellin-Little, Levine:Reliability of Goniometry in Labrador Retrievers, AJVR, 2002

跛行の評価

跛行スコアを用いて数値化すると良いでしょう〈表3参照〉。
数字化することで客観的な評価が可能となり、リハビリテーション達成度(≒機能回復の程度)の一指標として利用できます。

【表3】跛行の程度の客観的評価
【歩行時/速歩時の評価】
スコア 歩様
正常な歩行
1 軽度な跛行
2 明瞭な体重耐性の跛行
3 重度な体重耐性の跛行
4 間欠的な体重不耐性の跛行
5 持続的な体重不耐性の跛行

【4】治療計画立案 U

整形学的検査

神経学的検査の様子

肢端から体幹に向かって触診・視診を行います。常に一定の方法で行い、全体的な評価を行うことで、問題と思われる部位のみに目がいってしまうなど、見落としがないようにします。各関節の伸展・屈曲時の疼痛の有無などを把握することも重要です。

神経学的検査

神経学的検査シート(獣医神経病学会 提供)

獣医神経病学会作成、神経学的検査シートを用いて行うと良いでしょう。
姿勢反応、脊髄反射、知覚検査はリハビリテーション開始前の機能評価、そして治療後の効果判定に有効です。

【 神経学的検査の様子 】
リンク先:獣医神経病学会
トップページ→ダウンロード→神経学的検査シート

※アドバイス
整形外科疾患や神経疾患の動物(特に犬)の約70%は肥満と言われており、これらの動物ではリハビリテーションと併行して減量も必要になります。
肥満状態の指標としてはBCS(ボディコンディションスコア)が用いられることが多いですが、最近では体脂肪測定を指標として取り入れている病院も増えています。

【5】 始める前に考える非常に重要なこと

リハビリテーションプログラムを計画する時は、治療対象となる動物にとってはもちろんのこと、飼い主さんにとっても無理のない計画(通院回数、費用など)を立案しなければいけません。
飼い主さんに対してはリハビリによる治療達成最終目標を設定するとともに、3ヶ月に1度程度の短期目標を設定することは、飼い主さんのモチベーション維持の助けとしても重要と言えます。
動物に対しては治療に対する快適度や疲労度も考慮し、メリハリをつけて行うことが重要です。

例:リハビリ通院中の院内メニューでは許容範囲ぎりぎりの負荷まで行い、自宅メニューは院内メニューの5〜6割程度にする等

何よりも重要なことは「リハビリが辛く苦しいものではあってはならない」ということを施術者と飼い主さんの両方が認識し、継続的に実施する(実施できる)ような工夫をすることです。

基本的なリハビリ実施の流れ

基本的なプログラムの流れは上記の様になりますが、症例ごとにあったプログラム設計が必要であり、飼い主さんとの密なコミュニケーションが必要となります。
一般的に6ヶ月程度を目安に最終目標の変更を行いますが、リハビリテーションプログラムは症例ごとに定期的に見直しする必要があります。

※いずれのリハビリテーションプログラムも来院時のみ、自宅のみで完結するものではなく、両方での継続実施が重要であることを忘れてはいけません。


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